ものがたり:春夏秋冬編 第4作:冬ごもり中の出来事
1
ここかっぱの国にも木枯らしの吹く寒い季節がやってきました。
かっぱの国では、グループで、あるいは家族で地中に穴を掘り、
冬眠しながら寒い時期を静かに過ごします。
かっぱのしずく一家も大きなブナの木の根元に、秋の終わりに家族みんなで大きな穴を掘り、
この穴でひと冬を過ごすことになりました。
普段では忙しくて作ってはもらえないお母さん特製の胡桃の焼き菓子や
お芋のクリームサンドもこの冬眠の時期にはおねだりができるので
とても楽しみなしずくです。
そして、おじいちゃんから聞くまだしずくの見たこともない世界のお話も・・・。
でも、しずくはこの冬眠、退屈すぎてあまり好きではありません。
今年の冬もお父さんやお母さん達が眠っている合間にそっと穴をぬけだして、
いたずら好きな仲良しの野ねずみのモモ太とリスのゴン太と
雪合戦の約束をしていたのです。
今年は弟のみぃちゃんにもこの雪をみせてあげようと一人ワクワクするしずくでした。
おひさまのあたる時間がいよいよ短くなってきた北風の吹く日、
しずく一家は冬ごもりの生活にはいることになりました。
冬ごもりが始まり、幾日か経ったころ、
お母さんは何時間もかけて特製の胡桃の焼き菓子をつくってくれました。
大好物のお菓子でみぃちゃんとお腹をいっぱいにしたしずく。
おじいちゃんにおねだりをして、海で泳ぐ大きな大きなクジラさんのお話をしてもらいました。
おじいちゃんは、冬眠に入る合間に何日もかけて、海と川の違い、水は塩辛い事とか、
かっぱは海ではけっして泳ぐことができない事、川とは違ったお魚さんがたくさんいる事、
その中でも最も大きくてやさしい目をしているのがクジラの事などを話して聞かせてくれました。
しずくは見たことのない海を見てみたい、
そして海に住むクジラさんとどうしても会ってお話がしてみたいと思うようになったのです。
2
冬ごもりをはじめて、1ヶ月と少し経ったころ、雪がちらつき始めました。
それは、もも太とゴン太との待ち合わせの合図です。
雪が降り積もった翌朝、太陽がたんぽぽ山の頂上に上がったとき、
川原のかっぱ堂に集合という約束の日がやってきました。
弟のみぃちゃんを連れてしずくは穴の扉を開け外に出てみると、
あたり一面は銀世界。
太陽の光に雪がきらきらひかり、目を開けていられないほどの眩しさです。
雪を初めて見たみぃちゃんはビックリ。歩くたびに雪に埋もれ、
その冷たさに「きゃきゃきゃ」と大騒ぎです。
しずくはそんなみぃちゃんの為に、秋のうちに準備してとっておいた大きな笹の葉でソリを作り、
モモ太とゴン太との待ち合わせ場所までみぃちゃんを乗せていくことにしました。
一生懸命にソリを引き、丘をあがりきったところでしずくは
みぃちゃんとともにソリに乗り、2人は川原まで一気に坂道を下りはじめました。
銀世界を滑りながら、そのキラキラ光る映りゆく景色に2人ともおおはしゃぎです。
ソリが止まり、川原に着いてかっぱ堂の前に行くともうモモ太とゴン太が雪合戦をはじめていました。
2人は大急ぎで雪玉をこしらえて、雪合戦に加わり、
大騒ぎ。しばらく経つと4人は雪だるまのようになってしまいました。
3
お昼を過ぎた頃には遊びつかれて、みんなお腹がぺこぺこ。
そこで、しずくの冬のお家に集まり、お昼ご飯を食べることにしたのです。
お家では、エンドウ豆のスープとふかふかのお芋の蒸しパンができあがっていました。
しずくのお母さんは、きっと4人がお腹をすかしてそろそろ帰ってくる頃だと
用意をしてくれていたのです。
雪でびしょびしょになった4人はからだが冷えていたので、
大喜びで暖かなスープとふかふかなパンをあっという間にたいらげてしまいました。
モモ太とゴン太はしずくのお母さんにごちそうのお礼にと後片付けのお手伝いを、
その間、しずくはお父さんの薪割りのお手伝いをすることにしたのです。
ちいさなみぃちゃんは初めての雪にはしゃぎ疲れぐっすりと眠り始めていました。
それぞれのお手伝いを終え、3人がしずくのおじいさんのクジラのお話を聞き始めたところに
郵便役のつばめ君が一大ニュースをもって飛び込んできたのです。
かっぱの国を流れる川を下りきった海岸に
大きなクジラが流されて動けなくなっているということでした。
からだが大きい為、浅瀬で泳ぐことができず、このままだと死んでしまうだろうと
しずくのおじいさんは言いました。
3人はクジラさんを励まし助けにいくことに決めたのです。
かっぱの国が環境破壊の為に、転々と移り住まなくてはいけない状態
であるのと同じように、クジラさんも海の環境破壊でからだにもっている
方位磁石みたいな組織が狂ってしまい、浅瀬にきてしまったのです。
同じ境遇の仲間を助けなければいけないと思ったのです。
生きる世界が違っても仲間なのだと思ったのです。
4
お父さんから冬ごもりに使う大事な薪を分けてもらい、
大急ぎで3人はイカダをつくりました。
このイカダで川を下りクジラさんに会いにいくのです。
しずく・モモ太・ゴン太は翌朝、川原に再び集合し、作ったイカダで川を下りはじめました。
それぞれのリュックには、冬用の貯蔵庫からそれぞれのお母さんが作った
お弁当やおやつがたくさん詰まっています。
川原では、海へ向かう3人を見送る仲間がたくさん集まり、
口々に頑張っていってくるようにと応援をしてくれました。
海まで谷をいくつか通らなければなりません。3人にはこんな遠出は初めてです。
3人とも怖くて不安でいっぱいでしたが、
それよりもクジラさんを励ましたい気持ちの方がよっぽど大きかったのです。
川の流れも穏やかで3人はより添って交代で仮眠をとりました。
空がしらみかけたとき、川の流れが変わり、3人は目の前に海を見たのです。
3人は手分けして右左と海岸線を探し始めました。
リスのゴン太がしずくの頭の上で、黒い大きな岩のようなものをみつけたのです。
人はイカダを岸につけ、その黒い岩のようなものに駆け寄っていきました。
近寄って見ると、それは3人の何十倍も何百倍もおおきなクジラさんでした。
しずくのおじいさんが話していたようにその目はとても優しげで、
でも今にも涙がこぼれそうなほど悲しげでもありました。
3人は、ここへ来るまでにどうしたらクジラさんの仲間が待つところまで
クジラさんをつれていけるか考えていましたが、
クジラさんを見つけた時潮の満ちる時間がすでに始まっていたから大変です。
満潮の一番海の水が海岸線に満ちるその瞬間、
少しでもクジラさんの体が水底から浮き上がったそのときに
海の遠くに見える太陽にむかって方向を定め泳いでもらおうと考えたのです。
衰弱しているクジラさんにしずくは必死に話しかけました。
「あきらめちゃダメだよ。みんな帰ってくるのを待ってるよ」
としずく。 そして、かっぱの国の薬局では
いろいろな秘薬やら特効薬と言われる薬があります。
その薬をクジラさんの口に無理やり投げ込みました。
5
クジラさんがしずくの言葉にうなずき、目をしっかり開いたそのときに、
向こうから大きな波がやってきたのです。
そして、かっぱの国の郵便役のツバメ君が、やはりかっぱの国からかけつけ、
クジラさんの頭に乗り、 「僕が行く方向を間違えないように手伝うから」 と、
クジラさんを勇気づけました。
進む方向がよくわからないクジラさんは、
それでも、ツバメ君と太陽の光を追ってやってきたおおきな波に乗り、
なんとか泳ぎ始めたのです。
からだが大きいがためになかなか自由に動けない様子ですが、
7、8回目の大きな波がやってきた時に体が沖にむかって前進しはじめたのです。
潮を吹きながら、しずくとモモ太・ゴン太そしてツバメ君に
お礼をしながら沖を目指して泳ぎ始めました。
クジラさんとあまりにも広い海をみながら、
3人はツバメ君とクジラさんを見えなくなるまで見送っていたのでした。
おわり