サイドストーリー:第5作:天の川とミツバチ
1
むかしからこの村には、
はちみつがわき出る神社がありました。
都会からそう離れていないが、
自然がいっぱいの山河に囲まれたこの村には、
年に一度多くの参拝者でにぎわいます。
参道わきには、めずらしいミツバチのお地蔵さまが出迎え、
万病にきくといわれるはちみつと、
夜空の光景を眺めにやってくるのです。
境内には、「てみずや」の龍の口から透明ではあるが、
金色のさらさらとしたはちみつがわき出ています。
手を洗い、口をすすぎ、ベトベトしたはちみつではなく、
さらさらとして甘い。
2
この神社にまつわるお話では、
むかし村を流れる川には大きな魚が住んでいて、
大雨のときはいつも暴れては村を洪水にし、
村人達を悩ませていたそうです。
それを天から見ていたミツバチの神様が、
大きな魚を退治し、村人達にはちみつをあたえ、
キズをいやしたと言い伝えられています。
今でもそのはちみつが、神社からわき出ています。
わき出ているはちみつは、
ミツバチ達が朝から晩までせっせと集めたはちみつで、
初夏の夜空を流れる天の川へと運んでいます。
参拝者は灯ろうに明りがともるまで待って、
その幻想的な光景をひとめ見ようと毎年楽しみにしています。
いっせいに夜空へ飛び立つその光景は、
金色の粉が舞い上がりキラキラとひかり輝いて、
それはそれは見ごたえがあります。
3
しかし、今年はその光景が見られないと
参拝者は残念がっています。
なぜなら、急にミツバチ達がいなくなったのです。
ある地方では、一夜にしてミツバチ達が
いなくなった事があったそうです。
その年は花も咲かず、リンゴやブドウ、ナシなどの果物の
収穫もありません。
田畑にまかれた農薬か、
温暖化による天候の不順か、
はたまた見知らぬ土地へ
はちみつ集めのために貸し出されたストレスか、
あちこちに見えない電磁波の影響で
帰る家がわからなくなったのか、
いずれも原因は分かっていません。
4
ミツバチの神様にこらしめられた大きな魚は、
天の川のはちみつがかたまらないように、
たえず泳ぎ回るバツを与えられました。
何年も、何年もひとりぼっちで。
その大きな魚は、うろこが金色、目も金色、しっぽも金色。
すべてが金色のべっこう飴のような魚です。
名前は「ホィッシュ」。
今年は、天の川へ運ぶミツバチ達がいないので、
はちみつの量が少なく、ホィッシュはなんとか体を横にして
つかっている状態です。
そして我慢しきれず、
苦しさのあまり夜空へ飛び出してしまいました。
夜空に並ぶ星座たちは大騒ぎ。
こと座やはくちょう座、わし座といった星座達が、
めいわく顔をしています。
ホィッシュは、夜空のうら側まで泳いで、2匹の魚達に会いに行きました。
うお座の魚達が言いました。
「天の川にぼくらの仲間がいたなんて、そんな色だと気がつかないよ。」
何百年ものあいだ、一人ぼっちでさみしかったホィッシュは、
彼らと楽しいおしゃべりの時間をすごす事が出来ました。
5
夜空のさわぎを聞きつけたミツバチの神さまは、
ホィッシュがまた悪さをしたのかと思いましたが、
天の川のはちみつの量が少なくなり、
苦しかったから逃げたのだと知りました。
そして、大急ぎで天の川にはちみつを運ぶよう、
日本中のミツバチに助けを求めました。
夜を待たずに、明るいうちから天の川へ飛び立つその光景は、
無数の金色の虹が空にかかっているようで、
夜空へ飛び立つ光景とはまた違った風情があり、
参拝者は大喜びでした。
天の川がはちみつでいっぱいになると、
ミツバチ達は、それぞれの土地へ帰って行きました。
楽しいおしゃべりを終えたホィッシュも、
はちみついっぱいの天の川へ戻って行きました。
6
みんなが寝静まったその夜、夜空から金色の粉が、
キラキラと舞い落ちてきました。
それは、急にいなくなった無数のミツバチ達でした。
ミツバチ達が急にいなくなったのは、
いつも一人ぼっちでさみしそうなホィッシュのためのたくらみで、
はちみつを運ばずにみんなで天の川へかくれていたそうです。
ほんとうの理由を、ミツバチ達から聞いたミツバチの神様は、
たまには天の川から飛び出し、うお座の友達に会いに
行く事をホィッシュにゆるしました。
ホィッシュは大変喜んでは、また天の川から飛び出してしまいましたが、
すぐに天の川に戻りました。
そうそう、天の川へかくれていたミツバチ達は、
みんなに迷惑をかけたバツとして、日本各地へ出稼ぎに行かされ、
はちみつの収穫を手伝わされたそうです。
そんな事より、ホィッシュがさみしい思いをしないですんだ事が
何よりのミツバチ達でした。
おわり