新作:かっぱとみつばち
1
ブン ブン ブン
今日も、多くのみつばちたちがそうしている様に
あま~いミツ集めに大忙し。
でも、1匹のみつばちが通常では考えられない位
天高く飛び上がりました。
いやっほう!お日様さんさん。
風をうけてどんどん上へ。もっと上へ。
名まえは「ふう」。
いつもと違う花のミツを探してみたい気持ちで舞い上がりました。
ふうの家族は、10,000匹の大家族。
そして、ふうは10,000番目の末っ子。
甘えん坊で、いたずらん坊。
きかん坊で、めずらしもの好きなみつばちです。
お父さんとお母さん、そしてふうを数えて9,998匹の兄弟たち。
ブン ブン ブン
高い空から見るそこは、いつも見る風景とは違って
全てが小さく見えました。
家族たちも、いつもの黄色い花畑も小さく見える。
でも回りにはおっきな山がある。もうちょっと高く飛んでみよう。
2
チュン チュン チュン
「どいた、どいた、どいた!」フラフラとんでるなと、
すずめたちがどなっています。ハッと気づくと、
遠かった山も近くに感じられました。
ブン ブン
あれ、風でだいぶ飛ばされたみたい。
ふうはちょっと心配になってきた。
「寄り道しちゃだめよ、ふう」とお母さんが言ってた。
「迷子になるなよ、ふう」とお父さんが言ってた。
「帰り道がわからなくなっちゃうぞ、ふう」と
お兄ちゃんたちが言ってた。
いつもまわりから聞かされている言葉が、
急に頭に浮かんで心ぼそくなってきました。
ブン
もう家族たちや、いつもの花畑もわからない。
でも、川はわかる。キラキラ光るまぶしい川。
いつもの花畑はあの川のそば。
ふうは風に流されながらも、
やっと黄色い花畑のある川までおりてきました。
3
ブン ブン ブン
いつものあま~いにおいにつられ家族のもとへ。
でも、確かに回りはみつばち達なのに知らない顔ばかりで、
体もひとまわり大きい。
そればかりか、よってたかって羽でこずかれます。
ブン ばちん ここは僕らの花畑だぞ
ブン ばちん あっちへ行け あっちへ行け
ふうの家族たちではありませんでした。
ブン ばちん こずかれた勢いで、
一度は地面にたたきつけられましたが、
川のほとりにあるたんぽぽまで、やっと飛んできて羽を休めました。
それを見ていた1匹の小さなかっぱ。
一体、どうしたんだい はち君?
はちと言われたふうはちょっとムッとした。
他の種類のハチとは、一緒にされたくないという気持ちが
彼にはあるらしく、その気持ちを察して言いなおした。
やあ、僕の名はしずく。君の名前をおしえてよ。
ふうは気を取り直したらしく、
ブン ブン ブン
「僕は日本みつばちのふう」と誇らしげ。
いろんな花の蜜を探してるんだけど、
ここは他のみつばち達の花畑だったみたい。
迷子になったなどとは言えませんでした。
4
この川辺の花畑の事なら何でも聞いておくれ。
しずくは、みつばちの好きな花畑の事をよく知っているみたいでした。
今の時期は、れんげや福寿草、クロッカスに菜の花。
これからはアカシアかな?
実は人間が買い取ってくれるはちみつのお金で、
花畑を増やしているみつばちの友達から教えてもらったのでした。
彼らはそのはちみつを、森の仲間たちにもおすそ分けをしてくれるのです。
じゃがいもの煮付けに入れたり、煎餅に塗ったり、
飲みやすくかっぱの妙薬に混ぜたりと大助かりしています。
特に、花びらの散る期間限定の山桜の蜜は最高。
ほんの少量しか取れないらしく、
森の仲間たちも何年も前から楽しみにしてるんだそうです。
それじゃ、はじめにれんげ畑につれてってあげるよ。
ちょっと川をさかのぼるけどいいかな?としずく。
5
ブン ブン ブン
「いこう いこう!」 ふうは羽の痛みや、
迷子になっている事なんて忘れてます。
れんげ畑につくと、しずくの話も聞かずにすかさず花びらの奥へ。
ゴソ ゴソ ゴソ
「くすぐったいよ。どうですぅ、私のミツは甘いでしょ」とれんげ草。
ペロ ペロ ペロ
確かに、れんげはこれまでにない位ふんわりした甘さでした。
ミツをもとめて。もっと花びらの中へ。もっと奥に行けそうです。
あれ?どこまでも、もぐって行けます。
ふうは体中いっぱいミツをつけながらもぐって行きました。
その中は、意外と広い。明るくて雲の中にいるみたい。
その中は、あちらこちらに道が分かれていて、
さらにその先も道が分かれています。
その中では、ふうは自分の力で飛んではいませんでした。
ゆっくりと吸い込まれているような感じで、流されているようです。
すごくゆったりとした感じで気持ちがいい。
すると、外の太陽のひかりが見えてきました。
6
ぬけ出ると、そこは別の花畑でした。
ふうは、首をかしげました。
たしか、れんげ草の花びらのなかをもぐっていたのに?
「それはね、花のトンネルだよ」としずく。
そこは福寿草の花畑でした。花から花へ。ミツからミツへ。
これは、みつばちの友達が使う近道。
みつばちの間では、「ハチミツロード」と言っているそうです。
まわりのふわふわした雲の道は、
多くのみつばち達が通ったおかげであま~い「わたあめ」になっています。
森の仲間たちは、おやつにちょっとだけご馳走になっていました。
いらっしゃい、いらっしゃい。みつばちさんよく来てくれましたね。
どうぞ、いっぱいのミツを持ってって下さいと福寿草。
ふうは、福寿草のミツをペロ ペロ ペロ。
あちこちの花びらを飛び回っています。
これはちょっと固めの、でも香り濃くいい甘さ。
この場所はわかりません。でも、この香りを覚えておけば、
別な場所でも福寿草を発見できそうです。
「また、奥までもぐってみてよ。」としずく。
7
ゴソ ゴソ ゴソ
これも深くもぐって行けました。
さっきと同じく、いくつかの分かれた道を流されて行きました。
遠くから、なにやら歌声が聞こえてきます。
だんだんと大きくはっきりと聞こえてきました。
そこらの土は、ド~ロドロ ♪
あちらの土は、パ~サパサ ♪
ここらの土は、フ~サフサ ♪
あの土、この土、クロッカス ♪
育ててくれた、フ~サフサ ♪
そこは、クロッカスの花畑。
クロッカスは、いつも楽しく歌っています。
ゴソ ゴソ ゴソ
このミツはさらっとしてるようだけど、深い味わい、いい感じ。
お母さんが好きな甘さだ。と思った瞬間
迷子になっている事を思い出しました。
8
ブン ブン
このまま、迷子のままだったらどうしよう。
あたりも少しづつ日が落ちてきて、暗くなりかけていました。
ブン
急に元気がなくなったふう。
黄色い花がいっぱい。そう、川の回りが全て黄色い花畑に行きたいな。
ふうは、いつもの黄色い花畑の事をしずくに伝えました。
たしか、ふうと出会ったあたりも「黄色い菜の花」がいっぱいだったな、、、。
しずくは、ふうが帰る家を探しているのだろうと気づきました。
そして、みつばちのハチミツロードは「行きたい花畑」を考えると
そこにつながるのだと教えてあげました。
ふうは精いっぱいの記憶をあたまに思い描きました。
いつも家族でハチミツを集めている黄色い花畑を。
9
ゴソ ゴソ ゴソ
クロッカスの花びらの中にもぐりこみました。
急に強い風に吹き上げられ、さらには一気に川を流される
流木のように吸い込まれていきました。
さっきまでのように、ゆっくりもぐっている感じではありません。
早くその場へ行きたい。という気持ちも伝わるみたいです。
すると、いつもの黄色い花畑のミツの香りがしてきたかと思うと、
出口が見えていきおいよく空に吹き上げられました。
ブン ブン ブン ブン ブン ブン ブン
ふうの羽音が強く、元気に感じられます
ジグザグ、小回り、大回り。四方、八方、宙返り。
ダンスでも踊っているかのごとく飛び回っています。
そう、ここはいつもの黄色い花畑。
「ふう!」
お母さんとお父さんが、この花畑で待っていてくれたのです。
ふうは涙をこらえているようです。
それを見ていたしずくは、「じゃ、またねっ」と川の中へ帰って行きました。
しずくが、くるりと甲羅を向けたが先か、
ふうはお母さんにしがみついて羽音にも負けないくらい泣きじゃくりました。
しかられると思っていましたが、
もうひとりで遠くへいっちゃいけませんよとお母さんから
一言だけ言われただけでした。
10
ふうは部屋に帰ると、お母さんをひとりじめ。
お母さんの作ってくれた暖かくとろ~りあまい三つ葉のスープを
飲みながら、ふわふわ綿毛のベットに寝転んでいます。
お母さんはふうの少しおりまがってしまった羽根を、
ていねいに伸ばしてやりました。
気持ちよさそうに、うとうとしながらもかっぱのしずくと
友達になった事や、ハチミツロードをぬけていろんな花畑の
ミツの話を自慢げにしました。
お母さんは、ハチミツロードの事など聞いた事もありません
でしたが、ふうの話に相づちをうって聞いていました。
今度僕が、れんげや福寿草、クロッカス畑に連れてってあげるね。
でも、これからはアカシアかなとしずくの言ったことをまねてます。
ふうは、それから何度もいろいろな花畑を見つけては、
花の中をもぐってみましたが、あの不思議な感覚の道
「ハチミツロード」は見つかりませんでした。
ふうは、いまでも川辺に行っては、かっぱのしずくを探していました。
しかし、きれいな川でしか生きられないかっぱのしずくたちは、
最近汚れてきたこの川で遊ぶ事ができなくなっていたのです。
ふうはいつか、しずくの仲間たちが住んでいる山まで
飛んで行こうと思っています。
おわり