5kappafamily’s blog

知人と一緒に童話を作成しています。これから挿絵を入れて絵本にしたいと思います。

サイドストーリー:第11作:幼い頃の記憶

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

耳慣れた音がなんとも心地よく、安心するとともに、

またウトウトと眠ってしまいそうな感覚におちいってしまう。

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

静音が売りであったにもかかわらず、

とうとう寿命がきたのだろうか?

昨日の夜中にタイマーをかけておいた洗濯機の音であった。

 

 

久しぶりに聞くこの音に、

私はベッドの中である事を想い出していた。

赤ン坊の時の私は、母親が家事をする時は

いつも縁側で天日干している布団に寝かされていたそうだ。

暖かな日は、日向ぼっこをしながら

ふかふかの布団にゴロリと寝かされる。

受ける日差しの心地よさと

洗濯機のリズミカルな音の奏でる安らぎとが重なり、

スヤスヤと眠ったそうだ。

1歳にもなっていないその情景を、私はハッキリ覚えている。

何故なら、その証拠に

その時の写真がアルバムに貼ってあったからである。

 

3

 

森や林ばかりの景色の中に、ドーンと走る国道。

その脇にある林を、一部くり抜いたように町営住宅があった。

車がやっとすれ違える程度の細い入り口を入ると、

5戸つなぎの長屋が縦横に300戸ほど並んでいる。

西南のいちばん奥の角にある39号室は、

私が中校生まで住んでいた住宅である。

 

 

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

今想えば、立って歩く事も出来ない赤ん坊の頃から

子守唄のように聞いていたその音の記憶は、

母が他界した幼稚園を境に途切れていた。

父は、仕事と私の面倒を見るかたわら、

洗濯はもっぱら会社から帰って、夜にするようになっていたのだ。

ちょうど白黒からカラーになったばかりのテレビを、

見たい年頃の私にとって、

洗濯機のその音は耳障りな音としかとらわれなくなっていた。

 

 

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

小学3年生になった私は、

毎年決まってこの時期にいつも風邪をひいていた。

その日も私は学校を休み、

父が仕事へ出かけてからも布団の中でウトウトとしていた。

すると、裏の勝手口の外から洗濯機の音が聞こえてきた。

陽の光の中で聞くその音は、赤ん坊の頃の心地良さを思い出させた。

何とも言えぬ安心感と、風邪の熱もあったせいか、

同級生が学校帰りに給食のパンと授業のノートを持ってきてくれるまで、

また寝てしまったらしい。

次の日、熱は下がったがもう1日大事をとって学校を休む事にした。

 

 

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

その日も、父が仕事に出かけて少したった頃、

外の洗濯機から音が聞こえてきた。

もしかしたら、お母さんが洗濯をしているのではないだろうか

という思いが頭をかすめたが、小学校3年生ともなると

それはありえない事だと、すぐに思い直した。

そっと台所の窓ガラスからのぞいてみたが、人影はない。

でも、確かにうちの洗濯機が回っている。

今度は、勝手口から扉を開けてのぞいてみた。

 

 

 

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

そこには黒っぽいリュックサックを背負った

私よりちょっと背の低い子供が立っていた。

「なにしてるの?」

急に声をかけたので、その子はビックリしたらしく、

洗濯機に頭をゴツンとぶつけた。

「ご、ごめんなさい。 勝手に洗濯機を借りてました。」

と下を向きながら振り返った。

 

その子は、ふっくらとした顔立ちの、まるい黒目が大きく、

ほっぺたはぷっくりとした桃まんじゅうのようだ。

おどろいた事になんと口には、

鳥のような黄色く、小さなくちばしがついてる。

下着のようなシャツにひざがすりむけている長すぎるズボンは、

サイズが合わないおさがりを着せられているようで、

ベルトはしているのか、ズボンが腰のあたりからずり落ち、

靴もはかずにはだしであった。

 

名前は「しずく」と教えてくれた。

 

 

脱水が終わると洗濯物をかごに入れた。

畑仕事でおばあちゃんが背負っていた竹で編んだ

「しょいこ」と同じものだった。

よく見ると背中にはリュックサックではなく、

亀のこうらのようなものがついていたので、

しずくはかっぱなのかもしれない。

頭の上の毛が、薄くなっているのはたぶんお皿だろう。

 

さほどビックリしていない私に、「ありがとうございました」と、

ていねいにおじぎをしながら、お礼といってどんぐりの実を3つくれた。

どう見ても、普通のどんぐりであり、

変わったところなど全くなかった。

顔を上げると、自分の体くらいある洗濯かごを背負って、

さっさと林へと向かっていった。

どうにも気になり、着ている寝巻きのポケットにもらった

どんぐりを入れ、そっと後をついていく事にした。

 

 

しずくは、かごを背負ったまま器用にどんどん歩いていった。

その奥は、木々の間に自分の背丈ほどの笹が密集しており、

地面から木にからまるツタがなんとも歩きにくかったが、

見失わないようについて行く事にした。

笹がなくなり、歩きやすくなったと思ったら急にあたりは暗くなった。

今までより高く、太い木々が深緑の葉を

いっぱい貯えて陽をさえぎっていたのだ。

地面には落ち葉のじゅうたんがひかれ、ふわっとして歩きやすかった。

林から森へと移り、登ったと思ったら下ったり、

まわりの風景が時の流れのように一瞬で過ぎていくような気がした。

 

10

 

どのくらい歩いただろうか。

途中、お地蔵さまやお稲荷さまの小さな鳥居があり、

そのどこにもお花やお団子が供えられていた。

遠くにモクモクと煙があがり、

近くに民家でもあるのだろうと思いながら歩いて行くと、

やがて水の流れる音が聞こえてきた。

道々のところどころには、ぽっかりと光が差し込んでいた。

その先にあらわれた川は、さほど大きくはないのだが

川底の石がくっきりと見えるほど澄んでいた。

周りを見ると泉も湧き出て、遠くには沼らしきものも見える。

 

11

 

シャッパンと、川から飛び跳ねたのは、

自分と同じくらいの大きな魚のようだった。

気のせいか「こんにちは、僕はコイ次郎!」

と聞こえたような気がした。

しずくは、その先にある小さな滝の後ろに入って行った。

急いでついて行こうとすると、何百匹もの沢がに達が、

泡をぶくぶくとはきながら道をふさいだ。

何やらぶつぶつと話し合っているようだったが、

その内の1匹の大きな沢がにが前に出たとたん、

一斉に道をあけて滝の後ろへ通してくれた。

洞窟の中は、中央の通路をはさみ左右にいくつもの扉があったが、

通路の奥から明かりが見えたので、そこへ入って行った。

そこには扉はなく、まん中にある囲炉裏から、暖かな光がもれていた。

 

12

 

「やあ、来たね」

と、私がついて来る事を知っていたようにこちらを見ていた。

「ごめんなさい。無断で後をつけて、家にまで勝手にはいってきちゃった。」

と謝る私にしずくは、「それじゃ、これでおあいこだね。」と、

にっこり笑ってくれた。

ここは十里ほどはなれた、山奥だそうでとても小学3年生が、

寝巻き姿で来られるところではなく、

しずくが通ってきた水の道をたどって来たからこそ、

来られたのだと教えられた。

 

「水の道」とは、かっぱ達が使う地下水脈の道で、

それはいたる所に存在している。

流れは一方通行ではなく、低い所から高い所へ逆流する事もあり

、軽いものだけではなく、どんなに重いものでも動かす力がある。

そんな自然の力に逆らわなければ、

水の道を通ってどこへでもわずかな時間で行き来できるのだそうだ。

 

もっと驚いた事は、流れの分岐となる関は、

泉や池や沼であったり、湖や川や滝であったりする。

その関にはさまざまな過去の記憶が交差し、

その深さは計り知れず奥底でつながり記憶が蓄積されているらしい。 

しずくの住むその滝も関のひとつであるため、過去をのぞく事が出来ると言う。

「なにか見てみたい?」と、しずくが言った。

私は迷うことなく、母に抱きかかえられてすごした日々を見たいと答え、

しずくが指さす滝つぼをのぞいてみた。

 

13

 

そこは学校の教室だった。

算数の授業中で、教室の後ろには大勢の母親達が並んでいた。

どの母親もわが子の姿を必死に追って、

見つけるやあたたかなまなざしを注いでいる。

昨日の授業参観日の様子だった。

 

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

なんと、その母親達の中に、なつかしい母の姿があったのだ。

私の姿を探しているのか、きょろきょろしているようだったが、

いない事がわかると寂しそうな顔をしながら、

すぅ~と見えなくなってしまった。

天国から私の授業参観に来てくれていたのだった・・・。

小学校に入学してから毎年来てくれていたのかと思うと、

涙が出て止まらなくなった。

そして、何故だか急に家が恋しくなった。

 

14

 

その事を察してか、しずくは私の寝巻きのポケットのあたりを指さした。

ポケットには、もらったどんぐりがあった。

それを滝つぼになげるしぐさをしたので、そのひとつを投げ入れてみた。

すると、どんどんと大きくなる波紋が周りを巻き込みながら

ぐるぐると回りだした。

その渦は次第に滝全体から景色や私までも巻き込んでいった。

 

グヮゴン ギュゴン グワワン グワン

ふと気がつくと、中心に向かって渦を巻きながら

回っている洗濯槽をながめていた。夢かと思ったが、

寝巻きのポケットのどんぐりは2つになっていた。

4年生からは、同じ時期に風邪で休む事はしなくなった。

授業参観では、後ろで母親が見てくれていると思うと、

先生の質問に対して元気良く手をあげている私がいた。

 

終わり

サイドストーリー:第10作:ひとりじゃないよ (短編)

         

どこまでも続く青い空、
眩いばかりに降り注ぐ陽の光を受ける山の中腹に広がる草原。
そこは見渡す限り、山・山・山...。
聞こえてくるのは、鳥のさえずりと沢のせせらぎ、
風にそよぐ木々の葉音だけ。
たまに鹿の鳴き声が聞こえてきたりするけれど...
そんな時は、山や森に住む動物たちと友達になれたような気がして、
なんだかとても嬉しくなる。
思わず手足を思い切り伸ばして、深呼吸。絶景が広がるこの場所は
かっちゃんのお気に入りの場所。
ここで過ごす時間がかっちゃんを元気にしてくれて、
優しさを取り戻させてくれるのだ。
ここを訪れるたび、思い出されるのは...あの早春の出来事。。。
その日、かっちゃんは認知症を患い、
笑うことが日毎に少なくなってしまった
お父さんに笑顔が戻りますように…そして、
お父さんが過ごしてきた沢山の
思い出がお父さんの記憶から消えたりしませんように…
とお願いをしようと、しずく山の守り神である
魚を抱くお地蔵さまに会いに行ったのです。

しずく山の登り口は人を拒んでいるようかのよう・・
草木が今にも襲い掛かってきそうな勢いで生い茂っています。
陽の光は全く届かず山道は細く暗く、
尖った小石と木々の根っこといたるところ苔だらけ。
容赦なく続くガタボコ道に心が折れそうになります。
とうとう木の根っこに足を取られ、大転倒。
汚れた手を洗おうと、水音のほうへ近づいて行くと、
川原で5匹の子がっぱ達を見つけました。
5がっぱ達もかっちゃんに気がつき、
人懐っこく「一人できたの?何しに来たの?」
と問いかけてきました。
しずく山のお地蔵さまにお父さんのことをお願いに来たことを話すと、
あれっ?さっきも魚を抱くこの山の守り神のお地蔵さまに会いにきた
という大きなリュックを担いだ人がここで顔を洗って行ったよy
と教えてくれました。
かっちゃんは、その人が誰なのか直ぐにわかりました。
魚を抱くお地蔵さまの事を教えてもらったのは、
かっちゃんとお父さんをいつも助けてくれる大事な友達、
フクちゃんだからです。
この週末に教えてもらったお地蔵さまに
お願いに行くとも話をしていました。
きっと、どこからか「あれっ?奇遇だね・・気が合うねぇ」
なんて言いながら姿を現しそうな気がしました。
かっちゃんを心配して、だけど、かっちゃんが負担にならぬように
何気なく装って、かっちゃんが元気になる待ち伏せを企んでいるのでは?
と思いました。
そんなフクちゃんの温かさがとても嬉しく思えて、
転んだ手足の痛さは吹っ飛んでしまいました。

沢で手を洗い、颯爽と歩き出すと、
5がっぱ達がゾロゾロ着いてきます。
「どうしたの」と聞くと、
「台風で父さんや母さんとはぐれちゃったから、
僕たちもお地蔵さまのとこへ行こうとしていたんだ」と。
険しい山道を5がっぱ達と汗だくで登っていくと
大きなカーブを過ぎた先に
明るい陽射しが射し込む渓谷のつり橋がありました。
そのつり橋は細く、少しの風にもゆらゆらと大きく揺らぎます。
5がっぱ達は背が小さく、つり橋のロープに手が届きません。
かっちゃんは5がっぱ達を自分のリュックに背負いこみました。
小さいと言えども5匹も背負ったのですから、さすがに重く、
つり橋はかっちゃんが一歩進むたびにギシギシと音をたてて、
橋板がグッとめり込みます。
風が吹いて橋が揺れるたび、5がっぱ達はジェットコースターに
乗ってるつもりで大はしゃぎですが、
かっちゃんの手はロープですり傷だらけ・・・
でも、ひとりじぁないから頑張れるのです。
つり橋を渡り切ると最後の登り道は舗装された道になっていました。
随分前に、舗装した感じです。そのアスファルトに残る雪面に
「かっちゃん、頑張れ」と雪文字が書かれていました。
やっぱり、フクちゃんだ!
ロープですり切れた手のひらもへっちゃらです。
ひとりじゃない・・・から
5がっぱ達と最後の難関、真っ暗で古くて崩れそうな
長いトンネルも皆で手をつないで歌いながら歩いたら、
全然怖くなかったのです。
トンネルの出口のめ、そこには、両手を大きく振るフクちゃんが
笑って立っています。
そのフクちゃんの後ろには魚を抱くお地蔵さまも笑っていました。
きっと、皆の願いが届いたはず・・・。

おわり

サイドストーリー:第9作:ぶっちーとなでぽぽ  ---勇気をもって---

まっさおな大空と雄大な山々・緑あふれる森がすべて見渡せる水辺。
山々から流れ落ちてくる清流が水しぶきでキラキラと輝きます。
その水辺にはたくさんの水草が茂り、青々しい夏の香り
水草にまじって、愛らしいなでしこやタンポポたちも元気よく空をあおぎ、
咲き乱れています。
その水辺は山や川や森に住むみんなの楽園。

そこへ、奥の方の森からミツバチの大群が蜜集めにやってきました。
どうやら、とろーりあまあまのなでしこやタンポポの蜜が目当てのようです。
そのミツバチの大群にずいぶんと遅れをとった1匹のミツバチ。
名前はぶっちー。何をしても不器用でみんなに遅れをとってしまいます。
だけど、ぶっちーは何にでも一生懸命、いつも自分より誰かを
思いやる優しいミツバチです。

ぶっちーが仲間たちにだいぶ遅れて、
ようやくなでしこやタンポポが咲く水辺に到着。
でも、蜜集めをするためにぶっちーがとまれる
なでしこやタンポポは見当たりません。
既に仲間がとまって蜜集めに精を出しています。
ふと、ぶっちーがどうしよう・・・とキョロキョロ探していると、
陽の光を避け、うつむいている悲しげなタンポポに気がつきました。
ぶっちーは地面に降り立ち、
そのタンポポに声をかけようと見上げてビックリ・・・
姿はタンポポ・・・
うーん・・・ちょょっと違う??
タンポポのような黄色ではなく、
なでしこのようなオレンジのようなピンクのような愛らしい色で、
花びらがハートのカタチをしています。

名づけるなら・・なでぽぽ・・・??

ひと夏前にやんちゃなミツバチがタンポポとなでしこの蜜を
一気に集めようと飛び回り、かわいらしい
タンポポとなでしこのハーフ なでぽぽが誕生したようです。

タンポポの仲間にも入れてもらえず、なでしこの仲間にもはいれず・・・
なでぽぽは自分の姿を誰にもみられないようひっそり下を向き、
寂しくて、悲しくて泣いてばかりいました。
「何で泣いているの?こんなに気持ちの良い陽ざしが降り注いでいるのに・・」
「なでぽぽさんが上をむいたら、きっとみんなを優しい気持ちにしてくれると
僕は思う、なでぽぽさんはみんなを幸せにできる力をもっていると思うよ。
みんなにみてもらおうよ!!」
「勇気をだして!なでぽぽさん!!」
「不安だったら、僕がいつも傍にいてあげるから・・大丈夫!!!」

「私??私がなでぽぽ・・・?!」
「うん。そうだよ。」
「名前をつけてくれて、ありがとう、ぶっちーさん」
なでぽぽは嬉しくなり、思い切って顔をあげ、大空にむかって深呼吸してみました。
すると、空を舞うチョウチョや鳥たちが、くさむらで跳び跳ねるバッタ君たちが
いっせいに「なんて優しい色の花なんだろう・・・」と近づいてきて、
なでぽぽに声をかけてきました。
タンポポやなでしこたちも初めはビックリして戸惑っていたけれど、
「なんて陽の光に似合う色なんだろう・・
私たちもなでぽぽに負けないよう一生懸命咲かなきゃ、一緒にがんばろっと!」
と話しかけてきてくれたのです。

なでぽぽは思いました。
怖がってばかりで、自分は下ばかり向いていたけれど、それじぁ、ダメなんだと・・・
生きるって、前に進むことだと・・・ 
ぶっちーの優しさが、なでぽぽに勇気を与えたのです。
思い切って空を見上げてみたら、目に映るいろんなものが輝き始めました。
よし、私を見て、皆が喜んでくれるのなら、精一杯に咲こう・・
そして、たくさんの綿毛を飛ばして、来年は一人ぼっちにならないよう
たくさんのなでぽぽができるよう頑張ろう・・と、なでぽぽは心に決めました。

ぶっちーさん、ありがとう!
なでぽぽが綿毛がなれるよう花弁の中でたくさん
遊んでいってね。そして、私の蜜をたくさんもって帰ってね。
そして何より、できる限り長く私と一緒にいてくださいね。

ぶっちーも蜜を集めるという自分の役目に誇りをもって一生懸命働いていたけれど、
ほんとは、自分もなでぽぽと同じように、仲間のミツバチたちから、
「のろま、のろま」とからかわれ、いじめられ
友達って何だろう、仲間って何だろう・・・と頑張る力をなくしていたのです。
そんな時になでぽぽと出会い、なでぽぽの頑張ろうとする勇気に心を打たれ、
なでぽぽが大好きになりました。

ぶっちーも蜜を運び終わると巣に戻らず、
なでぽぽのそばで限りある時間をなるべく二人で過ごそうと思いました。
水草の間ではしゃぎすぎて飛び回りすぎて足がつっぱってしまった
バッタのぴんちゃんがあきらめず、リハビリをして飛べた事、 
ミツバチの天敵であるスズメバチたちとの決死の戦いに挑んで、
自分たちの巣を守った仲間たちのことを話しながら・・・
ぶっちーとなでぽぽはお互いに慈しみあい、
思いやりあいながら限りある時間をとても大事に過ごしました。

10

そして、なでぽぽがピンクの花びらから白い綿毛へと変化し、
あちらこちらに飛んでいく日、
ぶっちーの命も、蜜集めの役目を終え、燃え尽きようとしていました。
ぶっちーは自分の役目を終え、力をふりしぼり、なでぽぽのもとに戻りました。
綿毛になったなでぽぽがたくさんの夢を抱えて空へ飛んでいきます。
綿毛のなでぽぽを見送りながら、ぶっちーは目を閉じると、
もう動くことはありませんでした。
「僕はいつも、なでぽぽと一緒だよ・・・・。」
ぶっちーのそんな思いは、なでぽぽの綿毛と共に、風に舞っていきました。

11

このひとつの季節の、なでぽぽとぶっちーの様子を水辺の岩陰で、
そっと見守っていたかっぱのかっちゃん。
かっちゃんは大きな台風で川が氾濫し、おとうさんやおかあさんとはぐれてしまい、
この水辺にたどり着いたのです。
いきなり、一人ぼっちになってしまったかっちゃんも
やはり、なでぽぽやぶっちーと同じように寂しい思いをして、下ばかり向いていました。
そんな時ぶっちーやなでぽぽを見つけて、友達になれそうだな、声をかけようかなと
思いながらも、とうとう二人に声はかけられずにいたのです。
ぶっちーとなでぽぽの様子をただ見守り、耳を傾けながら元気をもらっていたのです。

12

かっちゃんは二人がそれそれに旅立っていくと、笹の葉で舟を作りました。
なでぽぽの綿毛がとんでいって残った花弁とぶっちーをその笹の舟に乗せ、
二人がいつも一緒にいられますように・・・笑い合いながら話ができますように・・
と祈りながら川に流しました。
かっちゃんはその笹の舟が見えなくなるまで見送り、
今度は僕が頑張る番だと、 お父さん・お母さんを探すことにしたのです。
なでぽぽとぶっちーから勇気をもらい、かっちゃんも前に進むことに決めました。
かっちゃん、頑張れ!
きっと、ぶっちーとなでぽぽが舟の上から応援してくれているはず・・・・・

おわり

サイドストーリー:第8作:軽自動車のハッチ


どこまでも続く青い空、
眩いばかりの陽の光を受けた緑あざやかな山々。
その谷間を流れゆく川では、
魚たちがキラキラと水しぶきをあげて飛び跳ねる、
そんなふもとの村にハッチは住んでいます。

まっ黒な車体、サイドミラーとタイヤ周りが黄色い軽自動車。
それがハッチです。まるでミツバチを大きく大きくした風貌。
このハッチの持ち主は一人暮らしをしているおじいちゃん。
テレビで見たミツバチ ハッチから、
自分の軽自動車にハッチと命名しました。
近くの山や川や野原を眺めながら、
のんびりハッチとドライブしたり、お買い物にでかけるのが
おじいちゃんの楽しみになっています。

ハッチは動いている時間より、駐車場にポツンと止まって、
おじいちゃんがお出かけの支度をして出てくるのを待っている時間
のほうが圧倒的に多くて、少し寂しい思いをしていたけれど、
自分の子供のようにハッチと名づけて可愛がってくれるおじいちゃんが大好き!
お天気が良くて、ぽかぽか日和にはお出かけしたくて、ついウズウズ
ムズムズしてしまいますが・・・

今日も、ハッチが止まっている駐車場に咲く
れんげ草やたんぽぽやコスモスの蜜集めに、
たくさんのミツバチたちがやってきました。
ミツバチたちがハッチを見て、「どうして、君はそんなに大きいの?」
「どうして飛ばないの?」「何を食べたら、そんなに大きくなれるの?」
とコワゴワ話しかけきました。
「僕は自分では動くことができないんだ。
持ち主の大好きなおじいちゃんが僕を動かしてくれて、
あちこちお出かけできるんだよ。
ごはんはガソリンっていう油さっ」
とハッチは自分のことをミツバチたちに説明しました。
「ふーん、そうなんだ。僕たちの仲間ではないんだね。。」
「仲間ではないかもしれないけど、友達になろうよ!」
ミツバチたちは、いつも少し寂しげに駐車場にとまっているハッチが
気にかかっていたけれど、ハッチがあまり大きかったので、
こわくて話しかけそびれていたのでした。
ハッチは自分に気がついていてくれたことがすごく嬉しくて、
「うん!いっぺんにこんなにたくさんの友達ができるなんて、、、最高だよ」
と答えました。

夏の間中、ミツバチたちは駐車場を訪れるたび、
ハッチに
あんなとこにこんな花咲いてたよとか、
ウズラの群れにであったよとか、
裏山でウリ坊の三つ子に出会ったよとか
いろんな話をしてくれました。
そして、飛び回って疲れた体をハッチの車体の上で
お昼寝をして休めて行くのでした。


ハッチも今日はおじいちゃんとお買物に行って、機械で体を洗ってもらって、
ガソリンもいれてもらってお腹が一杯なんだとおしゃべりしながら、
ミツバチたちとどんどん仲良しになっていきました。


夏も終わりに近づいた頃、ハッチはミツバチたちが話しかけても、
ふさぎ込むことが多くなりました。
大好きなおじいちゃんの体の具合が良くなく、
心配で、心配で仕方がないのでした。
お出かけできないことが辛いのではありません。
待つことなんてへっちゃら。
自分は待つこと以外には何も役立てないのが悔しいんだ、、と
ミツバチたちに打ち明けました。

ミツバチたちは皆で相談して、
いつもよりたくさん密集めに精を出しました。
ハッチのおじいちゃんのために栄養抜群の蜂蜜をプレゼントする為に。
軽自動車のハッチとミツバチは仲間や家族ではないけれど、
そんなことは関係ありません。
お互いがお互いを尊重して、思いやって助け合えることが
ホントの仲間や家族だとハッチを励まし続けたのです。

秋が訪れが感じられるようになったある日、
おじいちゃんは病院へ向かう為、
ハッチと出かけようと駐車場に行ってみると、
たくさんのミツバチたちがハッチのボンネットに
蜂蜜を届けてくれていたのでした。
おじいちゃんはミツバチたちに「ありがとう、ありがとう」と手を振り、
ミツバチたちは「おじいちゃんの相棒のハッチは僕たちの大事な友達だから、
何か力になりたかったんだ。」と
精一杯羽を震わせて、おじいちゃんの周りを飛び回りました。
ハッチは大好きな友達にいろいろなことを教わり、
たくさんの元気をわけてもらいました。

10

過激な暑さが終わりを告げ、おじいちゃんの体調も良くなってきた頃、
村に大型台風がやってきました。
ものすごい風と大雨、川は濁流となり、
山の斜面がゴーという不気味な音を立て崩れ始めました。
土砂崩れです。ミツバチたちの巣も一気に流れ落ちていきます。
ハッチの重い車体でさえ、地面にしっかり踏ん張ろうとしても、
体が揺れてしまう位の暴風雨。
ミツバチたちは無事だろうか。ハッチは心配でなりません。
だいぶ雨風が納まってきたころ、
震えながらミツバチたちがハッチのもとへ集まってきました。
何とか自分たちだけは逃げてきたけれど、
一生懸命に作り上げてきた蜂の巣は
無残に土砂崩れで流されてしまったというのです。
でも、ミツバチたちが何とか無事でいられたことが
涙がこぼれそうになるほど、うれしく思えました。
皆が元気なら何とでもなるよ!
がんばろうとミツバチたちを励ましました。

11

翌日は快晴。台風がうそのような良いお天気。
ミツバチたちはハッチの頭の上で羽を乾かし、
しばし心と体を休めています。また、一からリスタートです。
新たな本格的な巣作りができるようになるまで、
おじいちゃんはハッチの下に巣の代わりになるよう
藁や小枝を用意してくれました。
ハッチのおなかの下で、
ミツバチたちが安心して仮住まいできるように・・・と。
ハッチとおじいちゃんは、二人で約束をしていました。
ミツバチたちの新たな巣が出来上がるまで、お出かけはせずに
じっとしていようと・・・
ミツバチたちが安心して体を休める場所を提供することにしたのです。

ミツバチたちの蜂の巣が復活したら、そのときは、ミツバチたちを誘って、
野花が咲き誇る草原におじいちゃんとドライブに行こう・・・
と心に誓いました。

おわり

サイドストーリー:第7作:お誕生日までの小さな物語のプレゼント

1.

まゆがっぱから5がっぱたちは今日のお仕事をもうしつかりました。

芋掘りです。

さつまいも畑に行き、皆で綱引きのように並んでつるを引っ張ってみると

コロコロのお芋が土の中から顔を出しました。

5がっぱは、このお芋で焼芋を作ることにしました。

落ち葉を集めて、お芋を入れ、輪になってお芋が焼けるのを待ちます。

美味しくなーれと歌いながら。ほっぺは炊き火で真っ赤にしています。

焼きあがったお芋のひとつはやすがっぱにこれから届けに行くんだって。

頭の上にお芋のっけて川を泳いでいくらしいよ。

 

2.


僕ら5がっぱが、まゆ&やすがっぱに会ったのは

梓川上流の上高地にあるかっぱ橋

あの細くて長くて暗い釜トンネルを自転車で越えてきた、

2人はとびきりの笑顔だったんだ。

すごく誇らしげで、僕らの大事な上高地の山や森や川や空を

僕ら以上に慈しんでくれた。

僕らはどうしてもそんな2人と友達になりたくて、

リュックにしがみついて、初めて釜トンネルを越えて

吉祥寺にやってきたんだ。

そして、何もかもが初めての新しい生活がはじまった。

 

3.


川や山での生活しか知らなかった僕ら5がっぱは

色んなことを体験して、今じゃりっぱな吉祥寺人。

おつかいもお留守番もバッチリ。僕らこっちに来てから、

まゆかっぱに連れられて一緒にマラソンをするようになったんだ。

最初はなんか面倒だなーと思ってたけど、

雀のお宿になっている竹林で雀君たちと歌ったり、

ニワトリさんと追いかけっこしたり、水車で水遊びしたり、

四季折々の景色と風情を楽しみながら走ることは、

まゆがっぱだけでなく、僕らのライフワークになった。

水の中はとても神秘にみち溢れていて感慨深い世界だけど、

陸の上の世界も感動でいっぱいだよ。

まゆがっぱはさぁ、何故こんなに必死になって走るんだろう?

すごく不思議に思えた。だから、聞いてみたんだ。

そしたら、やすがっぱと出会ったのがマラソンだったから、

やすがっぱへの思いが続く限り走り続けたいんだって教えてくれたんだ。

僕らはまゆ&やすがっぱの友達だから、

2人を応援したいから走り続けることにした。

まゆがっぱは僕らの後ろから聞こえる

ぺたぺた、ぺたぺた、ぺたぺた

という足音を笑うけどさ。

 

4.


やすがっぱとまゆがっぱからは

水の匂い・緑の匂い・日向の匂いがする。僕らと同じ匂いがする。

普段は、カッコつけて仕事してるようだけど、

いざ遊びに行くとなると、まるで子供なんだよなー。

僕らと同じものに興味をもち、同じものに喜んで、

疲れ果てるまであそびまくるんだもん。

どこかに出かけるときにまゆがっぱはやすがっばや僕らの為に

でっかいおにぎりと玉子焼きを作ってくれる。

そして僕らには、おこずかい500円をそれぞれに持たせてくれる。

最近、僕らは生意気にもこの500円の値上げ交渉を試みているんだけど、

現在は却下されつづけてる。

まゆがっぱが渡してくれる500円は

僕らに色んなものをもたらしてくれる宝物なんだ。

僕らの使い方次第で、無限大の夢が広がる魔法のアイテム。

なんたって、まゆがっぱの僕らへのあったかな思いがたくさんつまった

500円玉だからさ!

 

5.


まゆがっぱは温泉が大好きなんだ。

だから、時間とお金のやり繰りがつくと、自分ややすがっぱへの、

そして僕らへのご褒美にあちこちの温泉に浸かりつつ、

季節を満喫しに出かけるのを、とても楽しみにしている。

たまたま目を通した新聞広告に

バスでの送迎付温泉ツアーを見つけたまゆがっぱは、

とにかく電話をしまくり、妙高高原の温泉バスツアーを予約したんだ。

ホテルに着くなり、露天風呂に飛び込んだまゆがっぱは、

黒い薬湯で底が段になっているのに気がつかず、

段を踏み外し、頭から温泉ダイビング!

僕らは可笑しくて、声に出して笑うと怒られるから

まゆがっぱに背を向けて肩ふるわせてた。

まだ500円玉を上手に遣うことができなくて、

バスの休憩で立ち寄るサービスエリアで、とにかく色んな物を買って食べ、

あっと言う間に500円はなくなってしまった。

これはまゆがっぱにつられて、食べたくなっちゃったんだけどね。

まゆがっぱはすごく美味しそうに、パクパク色んな物をたいらげてたもんなー。

いもり池という正面に妙高山を映すちいさな池があって、

回りを白樺の林に囲まれたちいさな池には、カモ君がたくさん泳いでた。

まゆがっぱたちは池のほとりの足湯に浸かり、

キノコ汁やキノコご飯を食べてたけど、僕らはおこずかいを使いきって、

お腹がペコペコだったんだ。

そこで僕らは、池のカモ君を捕まえて鴨ローストを作ろうと相談して、

一人ずつ一羽のかもを捕まえることに成功。

捕まえ食べてしまおうとした僕らたけど、

おっとりした疑うことを知らないカモ君たちを連れて歩いてるうちに

すっかり仲良しになり、空腹なんかより新しくできた友達と

過ごす楽しさが大事になっちゃった。

さすがに大滝に行く道すがらであった太っちょ猿軍団には

怖くて友達になれなかったけどね。

意気投合したカモ君は僕らと一緒に吉祥寺にやってきた。

吉祥寺かっぱ邸はさらに大所帯。賑やかな毎日になっていったんだ。

まゆがっぱが仕事に出かけて行った後、僕らはカモ君たちを連れて、

井の頭公園の池に遊びに行くんだ。

大きな鯉の背中にまたがり、セイリングしたり、カモ君と水遊びを存分に楽しむ。

まゆがっぱが帰ってくると、バスタブで甲羅を磨きっこ。

カモ君はシャンプーがお気に入りで、狭いお風呂は大混雑になってしまうんだ。

一日の終わりには、クタクタでまゆがっぱのお腹や足を枕に

おへそ丸出しで眠ってしまう。

これが気持ちいいんだなー。


追伸:5がっば、もちつき大会に出かけたので、おしるこ、食べさせてやってくださいまし。

後、のりをまいたやきもちも。よろしくです。

 

6.


僕ら5がっぱと5カモはまゆがっぱとやすがっばが

よく訪れる道志も大好きになった。

素朴な自然っていうのかな、優しい自然っていうのかな、とにかくステキなとこなんだ。

カモ君たちは今まで小さな池しか知らなかったから、

川の澄んだ水とその流れに目をパチクリさせて驚いてた。

僕らは川育ちだけど、その清々とした流れにはやっぱり目をみはったよ。

夏には蛍さんの舞いに見とれ、秋には林間のマラソンに参加して

紅葉の真っ赤なブローチを胸に飾るんだ。

ひなびた八百屋さんの脇のつり橋を渡り、少し歩くと、

絶好のお茶ボイントがあるんだ。

まゆがっぱたちはそこでミルクを温めたり、ひと息つくのがお気に入り。

僕らは道志川でカモ君たちとヤマメやあゆたちと遊んたり、

沢がに君にいたずらしてみたり、どんぐりや栗ひろいしたりと

楽しいことづくしなんだ。

そして、道の駅に守り神のようにして建っているかっばさんに頼まれて、

アルバイトもするよ。やっぱり、誰だって息抜きは必要だもんね。

即席の道志の守り神に変身!道の駅のかっぱさんをしばらくだけど、

自由にしてあげるんだ。

そして、帰り際に川や山をながめながら、道志のお湯にゆっくり浸かっていると、

心も身体癒される。

 

7.


やすがっはその年の春頃から背中が痛いといいはじめた。

春から夏もその痛みは続き、冬には胸の激痛に変わった。

僕らがかっぱの妙薬をぬってあげてもその痛みは止まらなかったんだ。

病院でいろいろな検査をして、ようやく原因がわかった。

脊髄の中に腫瘍ができてた。手術しなければいけなかった。

腫瘍のでき具合によっては、下半身不随の恐れもあると聞かされ、

やすがっぱはもちろん、まゆがっぱも心が砕け散りそうだったはず。

そんな中、やすがっぱのお誕生日が近かったので、

まゆがっぱは準備していたプレゼントの温泉ツアーを止めるか行くか

悩んだみたいだったけど、場所が近くだし、温泉でゆっくりして、

やすがっぱの気持ちを和らげることを重視して行くことに決めた。

この日、僕らはいつものように500円とおにぎりを持って川づたいに、

まゆがっぱたちは電車に揺られ根府川を目指した。

根府川の駅に着くとホームから2月とは思えない穏やかな陽の光に

キラキラと輝く大海原が広がっていた。

そして山あいの段々畑には青い空と鮮やかなオレンジ色のみかん畑が。

僕らもカモ君も海を初めて目にして、その大きさにびっくりだった。

そして、その水は池や湖と違い、しょっぱいと聞いて、またびっくり。

この日のお宿は露天風呂付きログハウスでやすがっぱをとても喜こばせた。

そして、木の上に作られたお風呂。ログハウスといい、ツリー風呂といい、

まゆがっぱはきっとこのサプライズでやすがっぱの抱える

腫瘍や手術や仕事の不安を和らげられると思ったんだろうな。

みかんを食べ、食べ終わった皮をお風呂に投げいれ、

みかん風呂にしたり、やすがっぱも僕らもカモ君もお風呂を満喫。

カモ君なんかみかん風呂でかも肉のローストオレンジソースがけのように

美味しそうな感じになってた。

あははっ。

夜には、星ヶ山というその名前の通り、満天の星がかがやいていた。

まゆがっぱはお風呂に浸かりながら、その星空に手術が上手くいって、

早く元気になりますようにと祈ってたっけ。

そんな清楚なまゆがっぱは、翌日山あいの散歩をしていたとき、

線路上の石壁を登ると言い出した。やすがっぱは痛み止めの薬を飲む状態なのに。僕らは心配で・・・呆れてしまった。やすがっぱも呆れながら、

それでも、言い出したらきかないまゆがっぱに付き合い、

笑いながら石壁越えをし、雑林で沢山のイガイガの実をコートにくっつけて

悪戯っ子みたいだったよなー。

道路に出てからコートのイガイガ取りを甲羅干しながら座りこんでしてたっけ。

それがあまりにも2人らしくて、僕らは笑っちゃった。

そんな2人だから僕らは大好きなんだ。

 

8.


まゆがっぱは会社に行きながら、スポーツクラブの先生もしてたんだ。

この頃までは。自分の好きなことだから大丈夫と頑張ってたけど、

身体を休める日なんて、ほとんどなかった。

自分の為に使える時間は少なかったけど、

その時間を大事に使おうとする気持ちがもっと大きかったから、日々大奮闘してた。

だけどまゆがっぱは、会社での仕事が毎日毎日遅くまで続き、

自分のトレーニングができず、体力がおちていって、

このまま教える立場でいるべきではないと、先生を辞めることを決めたんだ。

決めた日から、最後のレッスンまで、まゆがっぱは悔いのないよう

一生懸命にレッスンに取り組んだ。

僕らもレッスンに初挑戦してみたけど、

すごい汗で、まるで水の中を泳ぎ終えたようになったよ。

そして翌日は身体中が痛くておきあがれなかった。

迎えた最終日、まゆがっぱはピカイチの笑顔でレッスンを終えた。

最後まで笑顔でね。僕らもカッコよく踊れたよ!

何たってまゆがっぱはスパルタだったから。

水陸万能かっぱなんて僕らしかいないよなー。

えっへん!

レッスンを終え、まゆがっぱがスタジオをでようとしたとき、

クラブのスタッフの人が最後のショートレッスンをまゆがっぱに任せてくれ、

閉館までスタジオを使えるように配慮してくれた。

生徒さんからも持ち切れない花束と絶えない拍手を貰い、

まゆがっぱはとうとうないてしまったんだ。僕らもおもわず、貰い泣きしちゃったよ。

まゆがっぱの自分の好きなことに向けて頑張ってきた姿は皆に通じていたんだ。

僕らのまゆがっぱがとても大きく見えた瞬間だった。

 

9. 

    

腫瘍の手術を無事終えたやすがっぱはすごい勢いでリハビリに取り組んだ。

さすが負けず嫌いのやすがっぱだ。

春に手術、なのに秋にはフットサルのチームに加わり、

ボールを追いかけることに夢中になってた。

ずっと抱えてる腰痛があるから、100%全快でというわけにはいかないけど、

絶対にあきらめず出来る事を楽しむそのやすがっぱの生き方に

僕らは清々しい気持ちでいっぱいなったよ。

道志村の恒例林間マラソンも、

体力が落ちてしまったまゆがっぱの手を引いて完走。

僕らも手をつないでドタバタとゴールイン!

2人といるとなんか頑張っちゃうんだよな。まゆがっぱの生き方もすごいけど、

やすがっぱもすごい!2人はさぁ、それぞれが互いに相手に恥ずかしくないように

頑張りあってる良いライバルにもなっていると思うな。

2人に負けてられないからさ、陸上より、水上が得意な僕らもカモチームと

水上フットサルの練習を始めたんだ。水球って感じかな。

あゆ君や山女君やこい君のヘディングがなかなか手ごわいんだよ。

やすがっぱもチームにいれてあげようかな。

水の中だったら、腰ちょっとは楽かもね。

まゆがっぱもやるっていいそうだなー。

仲間はずれにすると、まゆがっぱ、手をつけられないほど、いじけるからなー。

そういえば、まだ僕らがやってくる前、水上にラフティングとパラグライダーを

しに行って、まゆがっぱだけパラで山から飛べず、ひたすら走りまくって、

いじけまくって大変だった、とやすがっぱが言ってたっけ。

わかる気がする・・・

 

10.


 ある夏の日の朝、いつものように僕らは500玉とおにぎりを持って、

三浦半島を目指した。やすがっぱのお母さんのお墓参りに行くことになった。

どんどん川を下っていくと、少しずつ磯の香りが強くなってきた。

海まで出たら、お寺までは登り坂が待っている。

お参りを終えたら、三浦西瓜をごちそうしてくれるとまゆがっぱは約束してくれた。

もちろん、キュウリは大好きだけど西瓜も僕ら大好物なんだ。

だから、お墓のお掃除も登り道も、頑張ろうっと。

でも、最後の登りに挑む前にひと休みっと。おにぎりタイムをとることにした。

海を眺めながら、おにぎりをほうばってたら、大きな鳶達が近くに寄ってきた。

あまりに気持ちの良い風にお腹がペコペコなのも忘れて

大空を飛び回っていたらしい。

でも、僕らのおにぎりがあまりに大きくて美味しそうだったから、

鳶君たちが空から舞い降りてきた。

そりゃぁ、まゆがっぱは不器用だから、

おにぎりはとてつもなく大きいし、形はいびつだけど、

美味しくなーれという気持ちがしっかり握り込まれてるから、

美味しく見えるわけだ。

僕らは鳶君たちにおにぎりをわけてあげた。

すると鳶君たちはお礼にと、僕らを背中に乗せ、お寺まで送ってくれた。

僕らは水の中だけでなく、陸上での楽しみも、そして鳶君のおかげで

空を飛ぶ素晴らしさも知る事ができた。

新しい仲間がふえたしね。お墓に着くと、もうお掃除も終わり、

まゆがっぱがやすがっぱのお母さんに一生懸命話しかけていた。

やすがっぱを守って下さってありがとうございますと・・・

また、2人で過ごせる時間をありがとうございますと・・・

これが言いたくて、まゆがっぱは三崎のお墓参りに行こうと

やすがっぱを誘ったんだろうな。

やすがっぱが手術を終えてから、初めての三崎へのお墓参りだったからね。

そして、お供えした西瓜を持って海岸まで戻り、カモ君や鳶君と

みんなで賑やかに食べた。

いかのゲソ焼きとかき氷もおいしくて、夏の三浦を思いきり楽しむことができたよ。

 

11.

    

まゆがっぱとやすがっぱの温泉道中、今回は箱根。

箱根神社でおちあうことにして、500円玉とおにぎりさんを持ち、

カモ君を連れ、吉祥寺を出発した。

今日のお宿では、きんめだいの煮付けが一匹、ドーンと出て来るとの

まゆがっぱ情報にカモ君がとても張りきっている。

待ち合わせの箱根神社では、ちょうど節分だったので豆まきに参加。

やすがっぱは身体が大きいから飛んでくる豆を結構たくさんキャッチしていたが、

まゆがっぱは人波に揉みくちゃにされ収穫なし。

僕らとカモ君、豆まきは最初からリタイアすることにして、

神社の境内で配られていたわかさぎのフライに舌鼓をうっていた。

縁起ものの御神酒もちょっぴり頂き、ポッカポッカのいい気分を味わった。

この後、富士山を眺めながら芦ノ湖の散歩やあちこちの湯巡りと

箱根を満喫したが、カモ君たちの様子か妙にそわそわ落ち着かないんだ。

楽しみにしていたはずのきんめだいの煮付けが出ても、気がそぞろ。

やすがっぱが一生懸命食べてたっけ。

お風呂に浸かりながら、カモ君にどうしたのか尋ねてみると、

芦ノ湖のカモちゃん達に恋しちゃったらしい。

いもり池では会ったことのないような洗練されたカモちゃんと

芦ノ湖の美しさにかなり心を惹かれたみたいだ。

僕らはまゆがっぱややすがっぱと相談して、

芦ノ湖にカモ君を残して帰ることに決めた。

まゆがっぱは帰りたくなったら、いつでも、かっぱ邸でもいもり池でも帰れるように

カモ君たちそれぞれの首に500円玉のネックレスをかけてあげたんだ。

自分たちの思うように生きなさいって。

それはまゆがっぱのおかあさんがまゆがっぱにかけてくれた言葉なんだって。

そして、まゆがっぱは、カモ君たちにこうも言った。

沢山のいろんなところにいる仲間がどんな時も力を貸してくれるはずだから、

頑張ってね・・・と。

 

12.


やすがっぱもまゆがっぱも僕らと一緒でやっぱり信州が大好きだ。

今はなき愛車のチェロちゃんに自転車を積んだりしてはよく訪れていた。

だから、僕らは2人に出会えたんだけどね。

この日はまだ暑さが残る9月初め、蓼科でおちあう約束をして僕らは出発。

山梨を越えたあたりから、空の青さがどんどん色濃くなり、

空気がおいしくなって、白樺の木が目立ち緑が鮮やかになってきた。

蓼科ピタラスロープウェイ山麓からは山登りだ。

まゆがっぱはおにぎりの他にチョコやら、とうもろこしやら、

美味しいそうなものをたくさんリュックに詰めているから、

それを楽しみに登っていこうっと。

登り口付近は森林浴をしながらの山登り、しばらくすると高原みたいに

草原地帯が広がる。ここまで来ると、やはり吹く風はひんやりと秋って感じだ。

ひと汗かいたところで、もろこしタイム。

さっき買ったりんごもジューシーでおいしい。小腹を満たし水分補給もバッチリ。

さあ、後半はゴツゴツとした岩場。この岩場を越えれば、頂上。

抜群の景色と赤トンボの群れに巡り会える。

ドキドキしちゃうなー。

頂上に着いてみると、雄大な景色は広がっていたけど、

赤トンボさんの姿はなかったんだ。

この時は頂上からちよっと下ったところに小さな池を見つけて、

「こんな山頂に池だー、泳いでくる」と大はしゃぎしていてよく考えなかったけど、

季節が変わり始めていたことに下りになってから気がついたよ。

いち早く秋の訪れをキャッチした赤トンボさん達は山を下り、

中腹の草原地帯に移動していたんだ。

陽の光の中を僕らが下っていくと話しかけるように回りに集まってきた。

やすがっぱや僕らに羽を休めるトンボ君もいる。

懐かしいような癒されるような素敵な光景だ。

これは、信州でしか見られない・・

えっへん!

赤トンボ君はやすがっぱや僕らには止まるのに、なぜかまゆがっぱには止まらず、

まゆがっぱは僕らをとても羨ましがってた。

翌日は帰り道、原村に寄り道。ずっと前、チェロちゃんと川岸で星を眺めながら

夜を過ごしたことを思い出したよ。

輝く星空ってああいうのをいうんだなとあらためて思ったよ。

そして今日はぬけるような高い高い青空の下だ。

パンやトマトやプラムやキッシュをほうばる。

心も身体も元気になるよなスカッと爽快なお天気だ。

自然の中で沢山の仲間と触れ合って、沢山の感動をもらう、

そんな中で毎日を過ごしていた僕らが、

まゆがっぱややすがっぱと一緒に帰るのは、

この自然の美しさと人の温かさの両方を大事にし続けたいからなんだ。

僕ら欲張りかな?

2人の傍にいるとほんとにしあわせなんだ。

2人でなかったらついて来なかった。

僕らは吉祥寺のまゆがっぱの家のかっぱでいられることが自慢なんだ。

季節は移り、寒さこたえる今日はやすがっぱの誕生日!やすがっぱ、おめでとう!(^_^)v

                  おわり

サイドストーリー:第6作:天の川のホィッシュ (天の川とミツバチの続編)

 

幼稚園年少組のわかしんは、

いつも誰かの後ろにかくれているような、

はずかしがりやの女の子です。

 

そんなわかしんが大好きなこと。

それは夜空を見上げて、

美しく光りかがやくお星さまをながめながら過ごす、

お母さんとの時間です。

 

動いていないようで、少しずつ、少しずつ動いている

お星さまはまるで、お友達と「だるまさんがころんだ」を

して遊んでいるようです。

暑い季節も、寒い季節も見えるお星さまは、

西から東へと、移動していることも知っています。

星座のことも、お母さんから教えてもらいました。

 

 

ある日、幼稚園の先生が笹竹をもってきました。

「今度の日曜日は、七夕の日です。

これからくばる短冊に、みなさんのお願いごとを

書いて飾りますので、明日までに考えてきましょう。」

と、色とりどりのおりがみを配ってくれました。

七夕は、年に一度の幼稚園のイベントのひとつです。

 

その日の夜も、いつものように用意したハチミツたっぷりの

あたたかい牛乳を飲みながら、お母さんといっしょに

天の川を見上げておしゃべりをしました。

その夜、わかしんはふしぎな夢を見ました。

 

 

夏の夜空を、頭の上から南の空にかけてよこぎる川が見えます。

「天の川」のようですが、よく見てみると、

その川にはハチミツがながれていました。

まわりには、たくさんの星座が並び、

とてもにぎやかにおしゃべりをしています。

 

川にながれるハチミツは、世界中の花に流れ、そそがれてゆきます。

もちろん、夏ばかりでなく、冬でもながれていますが、

寒ければ寒いほどほどハチミツの流れは、細く少なくなり、

川幅は狭く、流れる量も減ってしまうのです。

けれど、夏の夜空に流れるハチミツはこのうえもなく甘く、

大きな川の流れをつくっていました。

 

そのハチミツの川には、いっぴきの魚が住んでいました。

名前は、ホイッシュ。

うろこが金色、目も金色、そしてしっぽも金色。

そう、すべてが金色の魚で、

まるで縁日で買ってもらったべっこう飴のようです。

だから、誰もホイッシュには気づきませんし、

ひとり寂しく暮らしていました。

 

 

今年の夏は、なぜかこれまでにないほど

ハチミツの流れが少なく、川幅は冬よりも狭く、

川底もとても浅くなっていました。

ホイッシュは体を横にしてなんとか

ハチミツにつかっている状態です。

 

いつもは、川底深くもぐって泳いでいるホイッシュですが、

苦しさのあまり、とうとう飛び跳ねて、

ハチミツの流れから夜空へと、飛び出してしまいました。

 

ピョッシャン、パッショーン

 

ホイッシュがとつぜん、飛び出したので、夏の星座たちは大騒ぎ。

夜空にきちんと並ぶ、こと座やはくちょう座

わし座といった星座達が、めいわく顔をしています。

 

その星座達に「ごめんなさい。」とあやまると、

夜空の裏側まで泳いで行きました。

ホイッシュは、天の川の中からうらやましく見ていた、

いつも仲良しの2匹の魚達に、会いに行ったのでした。

 

 

いつも、秋から冬に見かける2匹の魚達は、うお座でした。

近くのみずがめ座の下には、彼らのお母さんが飛びはね、

おおきなくじら座は、お父さんかもしれません。

 

2匹のうお座が言いました。

「あの金色のハチミツの川に、ぼくらの仲間がいたなんて、

まったく気がつかなかったよ。その体の色では、わからないよね。」

 

いつも一人ぼっち、話し相手のいなかったホイッシュは、

彼らと楽しいおしゃべりの時間をすごしました。

 

星座達のさわぎを聞きつけた夜空のかみさまは、

ハチミツの川から飛び出したホイッシュのことを聞きました。

 

夜空のかみさまは、困った顔をしています。

なぜなら、彼がハチミツの川で泳いでいないと、ハチミツがかたまって流れが悪くなるからです。

 

ホイッシュは、ふたたびひとりぼっちの川には戻りたくなくて、

あっちの星座、こっちの星座と、泳ぎまわっています。

夜空のかみさまは、川のハチミツが少なくなって、

苦しい思いをさせたことを知り、世界中のミツバチたちに

天の川にハチミツを運び、川の流れを増やすよう命令しました。

 

そして、逃げ回るホイッシュを簡単に見つけ出し、

つまんで天の川に戻したのです。

夢はそこで終わってしまいました。

 

 

次の日、わかしんは、幼稚園のお友達に、

昨日の夢のお話をしました。

そのお話は、クラスの男の子にも、となりのクラスにも、

年中組のみんなにも伝わって行きました。

そして、幼稚園中のみんなは、ひとりぼっちのホイッシュに

家族やお友達をつくってあげたいと思ったのです。

 

わかしんは勇気を出して、先生に言いました。

「天の川にいる、ひとりぼっちのお魚さんのために、

お魚をいっぱい泳がせたいの」と。

幼稚園では、ずっと短冊にお願いごとを書いて、

七夕を迎えていたのですが、いつもはおとなしく

はずかしがりやのわかしんの提案を、

先生達は、喜んで受け入れてくれました。

 

 

園児達の、心の中にある気持ちが、その手を伝って、

短冊に思い思いの魚を描いたのでした。

茶色の短冊には、おおきな魚のお父さん。

赤い短冊にはエプロンをしているお母さん魚。

銀色の魚は弟で、ピンク色の魚は、

頭にリボンをつけた妹だそうです。

カラフルな短冊には、色々なお友達。

小さなめだかや、大きなサメもいましたが、

みんな楽しそうに笑っています。

 

わかしんの想いが、園児達みんなの願いへと広がって、

ひとりでは書ききれないたくさんのお魚を

描くことができたのでした。

 

幼稚園の中庭に飾られた笹竹には、色々な魚の短冊が飾られ、

風にふかれ、まるで水族館のようです。

 

 

みんなが寝静まったその夜

夜空から金色の粉が、キラキラと舞い落ちてきました。

それは、夜空のかみさまからの仕事を終えた、

無数のミツバチ達でした。

そして、夜空のかみさまからの命令は、もうひとつありました。

かれらは笹竹のうえを、グルグルと八の字に飛びまわり、

足に残ったハチミツをふりまいてから、あちらこちらへと

帰って行きました。

 

七夕の夜、園児達みんなと、先生達までが、

天の川に流れるハチミツの中で、

短冊に描かれたたくさんの魚達が、

楽しそうに泳いでいる夢を見たのでした。

そして、あいかわらずみんなには見えない

ホイッシュは、「ありがとう」と、飛びはねて、

姿をあらわしました。

 

ピョッシャン、パッショーン

 

いきおいあまって、またハチミツの流れから

飛び出してしまいましたが、今度は自分から

にぎやかなハチミツの川に戻って行きました。

 

わかしん、園児のみんな、幼稚園の先生。

そしてミツバチさん達も、ありがとう。

なにより、夜空のかみさま、ありがとう。

 

おわり

サイドストーリー:第5作:天の川とミツバチ

 

むかしからこの村には、

はちみつがわき出る神社がありました。

 

都会からそう離れていないが、

自然がいっぱいの山河に囲まれたこの村には、

年に一度多くの参拝者でにぎわいます。

 

参道わきには、めずらしいミツバチのお地蔵さまが出迎え、

万病にきくといわれるはちみつと、

夜空の光景を眺めにやってくるのです。

 

境内には、「てみずや」の龍の口から透明ではあるが、

金色のさらさらとしたはちみつがわき出ています。

手を洗い、口をすすぎ、ベトベトしたはちみつではなく、

さらさらとして甘い。

 

 

この神社にまつわるお話では、

むかし村を流れる川には大きな魚が住んでいて、

大雨のときはいつも暴れては村を洪水にし、

村人達を悩ませていたそうです。

 

それを天から見ていたミツバチの神様が、

大きな魚を退治し、村人達にはちみつをあたえ、

キズをいやしたと言い伝えられています。

今でもそのはちみつが、神社からわき出ています。

 

わき出ているはちみつは、

ミツバチ達が朝から晩までせっせと集めたはちみつで、

初夏の夜空を流れる天の川へと運んでいます。

参拝者は灯ろうに明りがともるまで待って、

その幻想的な光景をひとめ見ようと毎年楽しみにしています。

 

いっせいに夜空へ飛び立つその光景は、

金色の粉が舞い上がりキラキラとひかり輝いて、

それはそれは見ごたえがあります。

​3

 

しかし、今年はその光景が見られないと

参拝者は残念がっています。

 

なぜなら、急にミツバチ達がいなくなったのです。

 

ある地方では、一夜にしてミツバチ達が

いなくなった事があったそうです。

その年は花も咲かず、リンゴやブドウ、ナシなどの果物の

収穫もありません。

 

田畑にまかれた農薬か、

温暖化による天候の不順か、

はたまた見知らぬ土地へ

はちみつ集めのために貸し出されたストレスか、

あちこちに見えない電磁波の影響で

帰る家がわからなくなったのか、

いずれも原因は分かっていません。

 

ミツバチの神様にこらしめられた大きな魚は、

天の川のはちみつがかたまらないように、

たえず泳ぎ回るバツを与えられました。

何年も、何年もひとりぼっちで。

その大きな魚は、うろこが金色、目も金色、しっぽも金色。

すべてが金色のべっこう飴のような魚です。

 

名前は「ホィッシュ」。

 

今年は、天の川へ運ぶミツバチ達がいないので、

はちみつの量が少なく、ホィッシュはなんとか体を横にして

つかっている状態です。

そして我慢しきれず、

苦しさのあまり夜空へ飛び出してしまいました。

 

夜空に並ぶ星座たちは大騒ぎ。

 

こと座やはくちょう座、わし座といった星座達が、

めいわく顔をしています。

 

ホィッシュは、夜空のうら側まで泳いで、2匹の魚達に会いに行きました。

 

うお座の魚達が言いました。

「天の川にぼくらの仲間がいたなんて、そんな色だと気がつかないよ。」

 

何百年ものあいだ、一人ぼっちでさみしかったホィッシュは、

彼らと楽しいおしゃべりの時間をすごす事が出来ました。

 

 

夜空のさわぎを聞きつけたミツバチの神さまは、

ホィッシュがまた悪さをしたのかと思いましたが、

天の川のはちみつの量が少なくなり、

苦しかったから逃げたのだと知りました。

 

そして、大急ぎで天の川にはちみつを運ぶよう、

日本中のミツバチに助けを求めました。

 

夜を待たずに、明るいうちから天の川へ飛び立つその光景は、

無数の金色の虹が空にかかっているようで、

夜空へ飛び立つ光景とはまた違った風情があり、

参拝者は大喜びでした。

 

天の川がはちみつでいっぱいになると、

ミツバチ達は、それぞれの土地へ帰って行きました。

楽しいおしゃべりを終えたホィッシュも、

はちみついっぱいの天の川へ戻って行きました。

 

 

みんなが寝静まったその夜、夜空から金色の粉が、

キラキラと舞い落ちてきました。

それは、急にいなくなった無数のミツバチ達でした。

 

ミツバチ達が急にいなくなったのは、

いつも一人ぼっちでさみしそうなホィッシュのためのたくらみで、

はちみつを運ばずにみんなで天の川へかくれていたそうです。

 

ほんとうの理由を、ミツバチ達から聞いたミツバチの神様は、

たまには天の川から飛び出し、うお座の友達に会いに

行く事をホィッシュにゆるしました。

 

ホィッシュは大変喜んでは、また天の川から飛び出してしまいましたが、

すぐに天の川に戻りました。

 

そうそう、天の川へかくれていたミツバチ達は、

みんなに迷惑をかけたバツとして、日本各地へ出稼ぎに行かされ、

はちみつの収穫を手伝わされたそうです。

そんな事より、ホィッシュがさみしい思いをしないですんだ事が

何よりのミツバチ達でした。

 

おわり