5kappafamily’s blog

知人と一緒に童話を作成しています。これから挿絵を入れて絵本にしたいと思います。

サイドストーリー:第8作:軽自動車のハッチ


どこまでも続く青い空、
眩いばかりの陽の光を受けた緑あざやかな山々。
その谷間を流れゆく川では、
魚たちがキラキラと水しぶきをあげて飛び跳ねる、
そんなふもとの村にハッチは住んでいます。

まっ黒な車体、サイドミラーとタイヤ周りが黄色い軽自動車。
それがハッチです。まるでミツバチを大きく大きくした風貌。
このハッチの持ち主は一人暮らしをしているおじいちゃん。
テレビで見たミツバチ ハッチから、
自分の軽自動車にハッチと命名しました。
近くの山や川や野原を眺めながら、
のんびりハッチとドライブしたり、お買い物にでかけるのが
おじいちゃんの楽しみになっています。

ハッチは動いている時間より、駐車場にポツンと止まって、
おじいちゃんがお出かけの支度をして出てくるのを待っている時間
のほうが圧倒的に多くて、少し寂しい思いをしていたけれど、
自分の子供のようにハッチと名づけて可愛がってくれるおじいちゃんが大好き!
お天気が良くて、ぽかぽか日和にはお出かけしたくて、ついウズウズ
ムズムズしてしまいますが・・・

今日も、ハッチが止まっている駐車場に咲く
れんげ草やたんぽぽやコスモスの蜜集めに、
たくさんのミツバチたちがやってきました。
ミツバチたちがハッチを見て、「どうして、君はそんなに大きいの?」
「どうして飛ばないの?」「何を食べたら、そんなに大きくなれるの?」
とコワゴワ話しかけきました。
「僕は自分では動くことができないんだ。
持ち主の大好きなおじいちゃんが僕を動かしてくれて、
あちこちお出かけできるんだよ。
ごはんはガソリンっていう油さっ」
とハッチは自分のことをミツバチたちに説明しました。
「ふーん、そうなんだ。僕たちの仲間ではないんだね。。」
「仲間ではないかもしれないけど、友達になろうよ!」
ミツバチたちは、いつも少し寂しげに駐車場にとまっているハッチが
気にかかっていたけれど、ハッチがあまり大きかったので、
こわくて話しかけそびれていたのでした。
ハッチは自分に気がついていてくれたことがすごく嬉しくて、
「うん!いっぺんにこんなにたくさんの友達ができるなんて、、、最高だよ」
と答えました。

夏の間中、ミツバチたちは駐車場を訪れるたび、
ハッチに
あんなとこにこんな花咲いてたよとか、
ウズラの群れにであったよとか、
裏山でウリ坊の三つ子に出会ったよとか
いろんな話をしてくれました。
そして、飛び回って疲れた体をハッチの車体の上で
お昼寝をして休めて行くのでした。


ハッチも今日はおじいちゃんとお買物に行って、機械で体を洗ってもらって、
ガソリンもいれてもらってお腹が一杯なんだとおしゃべりしながら、
ミツバチたちとどんどん仲良しになっていきました。


夏も終わりに近づいた頃、ハッチはミツバチたちが話しかけても、
ふさぎ込むことが多くなりました。
大好きなおじいちゃんの体の具合が良くなく、
心配で、心配で仕方がないのでした。
お出かけできないことが辛いのではありません。
待つことなんてへっちゃら。
自分は待つこと以外には何も役立てないのが悔しいんだ、、と
ミツバチたちに打ち明けました。

ミツバチたちは皆で相談して、
いつもよりたくさん密集めに精を出しました。
ハッチのおじいちゃんのために栄養抜群の蜂蜜をプレゼントする為に。
軽自動車のハッチとミツバチは仲間や家族ではないけれど、
そんなことは関係ありません。
お互いがお互いを尊重して、思いやって助け合えることが
ホントの仲間や家族だとハッチを励まし続けたのです。

秋が訪れが感じられるようになったある日、
おじいちゃんは病院へ向かう為、
ハッチと出かけようと駐車場に行ってみると、
たくさんのミツバチたちがハッチのボンネットに
蜂蜜を届けてくれていたのでした。
おじいちゃんはミツバチたちに「ありがとう、ありがとう」と手を振り、
ミツバチたちは「おじいちゃんの相棒のハッチは僕たちの大事な友達だから、
何か力になりたかったんだ。」と
精一杯羽を震わせて、おじいちゃんの周りを飛び回りました。
ハッチは大好きな友達にいろいろなことを教わり、
たくさんの元気をわけてもらいました。

10

過激な暑さが終わりを告げ、おじいちゃんの体調も良くなってきた頃、
村に大型台風がやってきました。
ものすごい風と大雨、川は濁流となり、
山の斜面がゴーという不気味な音を立て崩れ始めました。
土砂崩れです。ミツバチたちの巣も一気に流れ落ちていきます。
ハッチの重い車体でさえ、地面にしっかり踏ん張ろうとしても、
体が揺れてしまう位の暴風雨。
ミツバチたちは無事だろうか。ハッチは心配でなりません。
だいぶ雨風が納まってきたころ、
震えながらミツバチたちがハッチのもとへ集まってきました。
何とか自分たちだけは逃げてきたけれど、
一生懸命に作り上げてきた蜂の巣は
無残に土砂崩れで流されてしまったというのです。
でも、ミツバチたちが何とか無事でいられたことが
涙がこぼれそうになるほど、うれしく思えました。
皆が元気なら何とでもなるよ!
がんばろうとミツバチたちを励ましました。

11

翌日は快晴。台風がうそのような良いお天気。
ミツバチたちはハッチの頭の上で羽を乾かし、
しばし心と体を休めています。また、一からリスタートです。
新たな本格的な巣作りができるようになるまで、
おじいちゃんはハッチの下に巣の代わりになるよう
藁や小枝を用意してくれました。
ハッチのおなかの下で、
ミツバチたちが安心して仮住まいできるように・・・と。
ハッチとおじいちゃんは、二人で約束をしていました。
ミツバチたちの新たな巣が出来上がるまで、お出かけはせずに
じっとしていようと・・・
ミツバチたちが安心して体を休める場所を提供することにしたのです。

ミツバチたちの蜂の巣が復活したら、そのときは、ミツバチたちを誘って、
野花が咲き誇る草原におじいちゃんとドライブに行こう・・・
と心に誓いました。

おわり