5kappafamily’s blog

知人と一緒に童話を作成しています。これから挿絵を入れて絵本にしたいと思います。

サイドストーリー:第6作:天の川のホィッシュ (天の川とミツバチの続編)

 

幼稚園年少組のわかしんは、

いつも誰かの後ろにかくれているような、

はずかしがりやの女の子です。

 

そんなわかしんが大好きなこと。

それは夜空を見上げて、

美しく光りかがやくお星さまをながめながら過ごす、

お母さんとの時間です。

 

動いていないようで、少しずつ、少しずつ動いている

お星さまはまるで、お友達と「だるまさんがころんだ」を

して遊んでいるようです。

暑い季節も、寒い季節も見えるお星さまは、

西から東へと、移動していることも知っています。

星座のことも、お母さんから教えてもらいました。

 

 

ある日、幼稚園の先生が笹竹をもってきました。

「今度の日曜日は、七夕の日です。

これからくばる短冊に、みなさんのお願いごとを

書いて飾りますので、明日までに考えてきましょう。」

と、色とりどりのおりがみを配ってくれました。

七夕は、年に一度の幼稚園のイベントのひとつです。

 

その日の夜も、いつものように用意したハチミツたっぷりの

あたたかい牛乳を飲みながら、お母さんといっしょに

天の川を見上げておしゃべりをしました。

その夜、わかしんはふしぎな夢を見ました。

 

 

夏の夜空を、頭の上から南の空にかけてよこぎる川が見えます。

「天の川」のようですが、よく見てみると、

その川にはハチミツがながれていました。

まわりには、たくさんの星座が並び、

とてもにぎやかにおしゃべりをしています。

 

川にながれるハチミツは、世界中の花に流れ、そそがれてゆきます。

もちろん、夏ばかりでなく、冬でもながれていますが、

寒ければ寒いほどほどハチミツの流れは、細く少なくなり、

川幅は狭く、流れる量も減ってしまうのです。

けれど、夏の夜空に流れるハチミツはこのうえもなく甘く、

大きな川の流れをつくっていました。

 

そのハチミツの川には、いっぴきの魚が住んでいました。

名前は、ホイッシュ。

うろこが金色、目も金色、そしてしっぽも金色。

そう、すべてが金色の魚で、

まるで縁日で買ってもらったべっこう飴のようです。

だから、誰もホイッシュには気づきませんし、

ひとり寂しく暮らしていました。

 

 

今年の夏は、なぜかこれまでにないほど

ハチミツの流れが少なく、川幅は冬よりも狭く、

川底もとても浅くなっていました。

ホイッシュは体を横にしてなんとか

ハチミツにつかっている状態です。

 

いつもは、川底深くもぐって泳いでいるホイッシュですが、

苦しさのあまり、とうとう飛び跳ねて、

ハチミツの流れから夜空へと、飛び出してしまいました。

 

ピョッシャン、パッショーン

 

ホイッシュがとつぜん、飛び出したので、夏の星座たちは大騒ぎ。

夜空にきちんと並ぶ、こと座やはくちょう座

わし座といった星座達が、めいわく顔をしています。

 

その星座達に「ごめんなさい。」とあやまると、

夜空の裏側まで泳いで行きました。

ホイッシュは、天の川の中からうらやましく見ていた、

いつも仲良しの2匹の魚達に、会いに行ったのでした。

 

 

いつも、秋から冬に見かける2匹の魚達は、うお座でした。

近くのみずがめ座の下には、彼らのお母さんが飛びはね、

おおきなくじら座は、お父さんかもしれません。

 

2匹のうお座が言いました。

「あの金色のハチミツの川に、ぼくらの仲間がいたなんて、

まったく気がつかなかったよ。その体の色では、わからないよね。」

 

いつも一人ぼっち、話し相手のいなかったホイッシュは、

彼らと楽しいおしゃべりの時間をすごしました。

 

星座達のさわぎを聞きつけた夜空のかみさまは、

ハチミツの川から飛び出したホイッシュのことを聞きました。

 

夜空のかみさまは、困った顔をしています。

なぜなら、彼がハチミツの川で泳いでいないと、ハチミツがかたまって流れが悪くなるからです。

 

ホイッシュは、ふたたびひとりぼっちの川には戻りたくなくて、

あっちの星座、こっちの星座と、泳ぎまわっています。

夜空のかみさまは、川のハチミツが少なくなって、

苦しい思いをさせたことを知り、世界中のミツバチたちに

天の川にハチミツを運び、川の流れを増やすよう命令しました。

 

そして、逃げ回るホイッシュを簡単に見つけ出し、

つまんで天の川に戻したのです。

夢はそこで終わってしまいました。

 

 

次の日、わかしんは、幼稚園のお友達に、

昨日の夢のお話をしました。

そのお話は、クラスの男の子にも、となりのクラスにも、

年中組のみんなにも伝わって行きました。

そして、幼稚園中のみんなは、ひとりぼっちのホイッシュに

家族やお友達をつくってあげたいと思ったのです。

 

わかしんは勇気を出して、先生に言いました。

「天の川にいる、ひとりぼっちのお魚さんのために、

お魚をいっぱい泳がせたいの」と。

幼稚園では、ずっと短冊にお願いごとを書いて、

七夕を迎えていたのですが、いつもはおとなしく

はずかしがりやのわかしんの提案を、

先生達は、喜んで受け入れてくれました。

 

 

園児達の、心の中にある気持ちが、その手を伝って、

短冊に思い思いの魚を描いたのでした。

茶色の短冊には、おおきな魚のお父さん。

赤い短冊にはエプロンをしているお母さん魚。

銀色の魚は弟で、ピンク色の魚は、

頭にリボンをつけた妹だそうです。

カラフルな短冊には、色々なお友達。

小さなめだかや、大きなサメもいましたが、

みんな楽しそうに笑っています。

 

わかしんの想いが、園児達みんなの願いへと広がって、

ひとりでは書ききれないたくさんのお魚を

描くことができたのでした。

 

幼稚園の中庭に飾られた笹竹には、色々な魚の短冊が飾られ、

風にふかれ、まるで水族館のようです。

 

 

みんなが寝静まったその夜

夜空から金色の粉が、キラキラと舞い落ちてきました。

それは、夜空のかみさまからの仕事を終えた、

無数のミツバチ達でした。

そして、夜空のかみさまからの命令は、もうひとつありました。

かれらは笹竹のうえを、グルグルと八の字に飛びまわり、

足に残ったハチミツをふりまいてから、あちらこちらへと

帰って行きました。

 

七夕の夜、園児達みんなと、先生達までが、

天の川に流れるハチミツの中で、

短冊に描かれたたくさんの魚達が、

楽しそうに泳いでいる夢を見たのでした。

そして、あいかわらずみんなには見えない

ホイッシュは、「ありがとう」と、飛びはねて、

姿をあらわしました。

 

ピョッシャン、パッショーン

 

いきおいあまって、またハチミツの流れから

飛び出してしまいましたが、今度は自分から

にぎやかなハチミツの川に戻って行きました。

 

わかしん、園児のみんな、幼稚園の先生。

そしてミツバチさん達も、ありがとう。

なにより、夜空のかみさま、ありがとう。

 

おわり