ものがたり:春夏秋冬編 第1作:春も終わりの出来事
1
春も終りに近い頃、子がっぱのしずくは
だいの仲良しの野ねずみのモモ太とリスのゴン太と
探検に出かける事にしました。
行く先は、りんご山の「れんげ峠」。
しずくのおじいさんは、遊んでばかりいる子がっぱや
森の仲間達を集めていろいろとためになるお話をしてくれます。
ときどきおじいさんから聞かされる
「れんげ峠」にしずくはどうしても行ってみたくなったのでした。
そこは、れんげの花が一面に咲き、たくさんの小鳥や蝶々が飛びかい、
美しい山と湖を見下ろす事の出来るところだそうです。
2
かっぱの国からりんご山の「れんげ峠」へは、
ブナの森を抜けゲンゴロウ川を渡りどんぐり山を越えて
行かなければなりません。
朝、出発して戻ってこれるのはきっと夕方近くになる
とおじいさんは話していました。
しかし、どうしても「れんげの丘」を見てみたいと3人は食糧庫に寄って
お昼のお弁当とおやつを用意して出かける事にしました。
食糧庫では、みんなで集めた食糧を貯蔵しています。
この他、畑や田んぼ・図書館・学校等などみんなが持回りを決めて
楽しく働いています。
とくに薬局は「かっぱの妙薬」として遠くからはるばる人間が
買いにやって来るほどです。
そこは、みんなが自由に平等に利用しています。
かっぱ達が出入りする扉ともう一つ小さな扉があります。
この扉は森中の仲間達に分けてあげる為の扉です。
野ねずみやリスや小鳥達もお返しと
木の実や果物を集めたり畑を耕したり、
豆まきを手伝ったりします。
3
3人は食糧庫におべんとうとおやつをもらいに行きました。
今日の食糧庫の当番は若草沼の弥太郎おじさんです。
青ごけ沼のしずくじゃないか、みんなそろってお出かけかい?
うん、3人でりんご山の「れんげ峠」まで
探検に行くんだ!
弥太郎おじさんは、「れんげの丘」のすばらしさを話しながら、
しずくにはおにぎりときゅうりモモ太にはチーズ、
ゴン太にはくるみの実をそれぞれのリュックに入れながら、
子供の足ではちょっと遠いかもしれないから
遅くならないように早く帰るんだよと言いましたが、
そんな忠告など3人の耳に入るはずもなく、
弥太郎おじさんの「れんげ峠」のすばらしい話で頭の中はもう一杯でした。
4
さあ、出発!
ブナの森をよく知ってる野ねずみのモモ太が先頭にしんがりはしずく。
ゲンゴロウ川ではしずくがモモ太とゴン太を頭に乗せて、
遊び仲間のコイのコイ次郎が先導して川を渡りました。
いよいよどんぐり山です。ここではゴン太が先頭です。
どんぐり山は誰も来た事がないのでリスのゴン太は
仲間のリスをさがして道を尋ねたり
高い木に登っては方角を確かめたりして一生懸命歩きました。
まもなくお昼という頃、3人はりんご山にたどり着きました。
りんごの小さな花の咲く畑をみっつ越すと
「れんげ峠」から見渡せる景色が3人の目の前に広がりました。
うわーっ
と3人が声をそろえたように叫びました!
おじいちゃんが話してたとおりだ!
野ねずみのモモ太はれんげの花の上でごろごろとでんぐり返しをしています。
リスのゴン太は歌を歌っています。
みんなそれぞれに喜びを表現しています。
そろそろお弁当にしようよ!とモモ太
3人の中で一番の食いしん坊です。
さっきまで騒いでいたかと思うと、お腹も一杯になり頑張って歩いて来たせいか
うとうとと居眠りをはじめてしまいました。
5
3人は家路へ帰るカラスの鳴き声で目をさますと
あたりはうす暗くなりはじめていました。
早く帰らないとお父さんやお母さん達が心配してしまうので
大急ぎで帰る事にしました。。
どんぐり山にさしかかる頃にはあたりはもう真っ暗になってしまいました。
3人は来た道もわからなくなってしまい、
暗くて心細くなりとうとう大きなどんぐりの木の下で
泣き出してしまいました。
お父さんとお母さんに「れんげの丘」に行く事を
話してこなっかたんだとゴン太
しずくもモモ太も同じでした。
6
泣きじゃくる声があまりにも大きかったので
どんぐり山のコノハズクがびっくりして3人のもとへ飛んできました。
コノハズクのおじさんは昼間の山や森は目が見えず苦手ですが、
夜は得意なので3人をゲンゴロウ川まで案内してあげる事にしました。
やっとのことでどんぐり山を越えゲンゴロウ川までたどり着きました。
川辺ではホタルのみんなが協力してあたりを照らしてくれたので
無事にゲンゴロウ川を渡る事が出来ました。
3人はコノハズクのおじさんとホタル達にお礼を言って
ブナの森に向かって歩き出しました。
コノハズクのおじさんに教わった道を、
寂しさをまぎらわすために歌いながら歩いていると
カジカガエルも一緒に歌ってくれました。
ブナの森では月の光が木々の間からこぼれ足元がはっきりと見えたので
立ち止まらずにゆっくりと歩き続ける事が出来ました。
7
遠くの方にいくつもの光がぼんやりと見えてきました。
それは月の光が照り返しているのでも無く、
ましてホタルの光でもありません。
貯水庫の当番だったしずくのお父さんは
帰る途中、たまたま若草沼の弥太郎おじさんと出会って
今日のことを聞いていたので、
帰りが遅い3人を心配して、モモ太とゴン太の家族とともに
ブナの森までむかえに出ていたのです。
しずくとモモ太とゴン太はその光を見つけると
目にたまった涙をこすりながら走り出しました。
ごめんなさいと叫びながら
お父さんとお母さんのもとへ飛び込みました。
お父さんとお母さんは怒りもしないで、それぞれの子供たちを抱きしめてくれたので、
安心した事と無事に着いた事でゴン太は泣き出してしまいました。
次にモモ太が泣き出しました。
しずくは2人の泣き声をきいてこらえ切れずに泣きだしそうになりましたが、
おじいちゃんに男の子はむやみに泣くものじゃないと
よくよく言われていたので何とか目をこすりながらも我慢しました。
8
3人はそれぞれのお家へたどり着きました。
しずくのおかあさんは野良牛の大治郎からもらう
牛乳をあたたかくしてくれました。
燃え上がる薪の前で飲みながら
大好きなおじいちゃんに今日の探検の話と「れんげの丘」の話と
夜暗くても3人で歌を歌いながら歩いてきた事を自慢げに聞かせてあげたのでした。
もちろん、どんぐり山の木の下での出来事は3人だけのひみつです。
おわり